DAILY SHORT COLUMNS - Daily Life -

 
2005.06.27
■(時時刻刻)情報流出、米では「日常」

 約4千万件のクレジットカード情報流出の震源となった米国では、個人情報の流出が日常茶飯事だ。平均すると3秒に1人が被害に遭い、個人情報を悪用した損害額は、被害回復にかかる時間なども換算すると昨年だけで約5兆8千億円に上る。カード社会の根が深く張りめぐらされる中で、情報盗難やカード詐欺がなくなることはあり得ないとして、その対策を売り物にするサービスが広がる。(ニューヨーク=渡辺知二、江木慎吾)

●利用者、少ない負担

 ニューヨーク市で昨年12月、「ジョナサン・ターリー」と名乗る男が車2台を買おうとした。支払いの方法を交渉する時、彼がCBSテレビで働いていると聞かされた車の販売員は不審に思った。テレビで見たジョナサン・ターリー(45)という法律問題のコメンテーターは白人。目の前の男は黒人だった。

 CBSに出入りするための身分証明カードをつくる際、ターリーさんが登録した社会保障番号などの個人情報が盗まれ、「偽ターリー」が本物になりすましたとターリーさんは言う。社会保障番号は事実上の納税者番号で、本人確認に使われる。

 ワシントン州では昨年、生後3週間の男の子の名前などの情報が盗まれ、誰かが診断費用と鎮痛剤の94ドル分をこの男の子につけて踏み倒すという事件も起きた。

 監督官庁の連邦取引委員会(FTC)によると、米国では過去2年間、1839万人が個人情報盗難の被害に遭った。損害額は昨年だけで526億ドル(5兆7890億円)だ。

 盗まれた個人情報は、本人になりすましてクレジットカードを申請したり、カードを偽造したりすることにも使われる。

 公的機関から得た個人情報を合法的に売っているサイトもある。あるサイトでは、人物検索で名前を入れると、住所や電話番号、住居の様式、周辺家庭の平均収入などが無料で見られた。十数ドルの料金を払えば、犯歴や結婚歴などの情報も入手できる。

 米国には世界に出回るクレジットカード約35億5千万枚のうち、14億8千万枚が集中する。数百円の買い物でもカード払いがよくあり、ガソリンスタンドではカードを差し込むだけでサインもせずに料金を払えるところが多い。

 今回の大量流出事件で、米国のメディアは日本ほど騒いではいない。クレジットカードを使うと自動的に口座から引き落とされるのが一般的な日本と違い、米国ではカード会社の請求に対して自分で確認してから払ったり承認したりするため、不正使用を見つけやすい。

 実際に不正使用があっても、法律上、利用者の負担は最大50ドル。多くの場合負担なしですむことも影響しているようだ。

●犯罪を前提にサービス

 米国では、金融機関がローンなどで把握した顧客の趣味や懐具合を示す情報を、関心のある企業に売って収益を得ることができる。今回のカード事件発覚に先立つ今月16日、連邦議会上院の公聴会で、カリフォルニア州選出のファインスタイン上院議員はある大手銀行が「個人情報を取引先約1千社に売っている」と批判した。

 この公聴会では、新たな法整備の必要性が議論された。

 カリフォルニア州は03年、個人情報の流出を把握した企業や自治体に対し、被害者への通知を義務づける制度を導入。他州も徐々に追随しているが、連邦レベルの動きはまだだ。

 連邦捜査局(FBI)の捜査を通じ、個人情報盗難事件で04年に回収・押収できた被害金は3290万ドル。米国全体の損害額の0・1%にも満たない。FBIは今回の事件について「捜査中」としているだけで、中身は一切明らかにしていない。

 こうした状況は、犯罪発生を前提にした様々なビジネスを生む。個人情報の闇取引を監視しているカードコップス社(本社・カリフォルニア州)には、今回の事件発覚後、1週間で約800件と通常の10倍以上の監視依頼があった。個人情報盗難の最新の手口紹介、企業のウェブサイトを犯罪から守るコンサルティングなど、リスク管理サービスも広がっている。

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◆管理会社に甘さ、データ集中あだ

今回、どんな形で情報が流出したのかは、ほとんど明らかにされていない。「『トロイの木馬型』ウイルスをメールなどで送り、情報を転送させる仕組みを組み込んだ恐れがある」と、あるセキュリティー会社の技術者はいう。「悪意あるプログラムが埋め込まれた」という米国の報道も、この見方に沿う。

 別の専門家によると、データを流出させる手法は多様だ。利用者がカードを使って店頭などから照会があるたびに盗んだり、ある程度データをまとめてから転送させたり。発覚を逃れるため毎回ではなく、高額な買い物に絞ったり、数百件に1件の割合で流出させたりも可能だという。

 「カード情報処理会社のシステムに侵入さえできれば、何でもできる。会社側が分からない『秘密の裏口』を開け、後でゆっくり作業すればいい」と独立行政法人・情報処理推進機構の加賀谷伸一郎研究員。今回の事件の最大の原因は「情報処理会社の管理のお粗末さ。銀行なら、顧客情報などは外部のネットにつながらない場所に置いている」と指摘する。

 セキュリティー対策を請け負う企業、ラックの三輪信雄社長は「大量のデータを集中管理していたのがあだになった。有能で良質なセキュリティー技術者は少なく、集中方式で厳しい管理をすることは現実的。小規模な会社が多い日本も他山の石とすべきだ」と警鐘を鳴らす。(平子義紀)

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◆キーワード

<米カード情報流出> 米大手クレジットカード会社の利用者4千万人分余りの個人情報が流出した可能性があると、マスターカードが17日に公表。少なくともビザカードの約10万人、マスターの約6万8千人など計約20万人分の流出が確認された。日本での発行分は対象の約0・6%で、被害は今のところ数千万円とみられる。

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◆最近の米国での個人情報流出の主な例(月日は公表・報道の日付)

●6月17日 クレジットカード情報(最大4千万件強)

 ビザ、マスターなどのカード情報が情報処理会社への不正アクセスで流出

●6月6日 銀行口座・社会保障番号(390万件)

 シティグループの顧客情報の入った記録テープを配送会社が輸送中に紛失

●5月23日 銀行口座番号、残高(10万8千件)

 バンク・オブ・アメリカなど大手行の情報を元行員らが盗み、外部に販売

●5月2日 社会保障番号(60万件)

 タイムワーナーの現・元社員の情報が入ったテープを保管業者が輸送中紛失

●4月14日 クレジットカード情報(18万件)

 ポロ・ラルフローレンの店で利用したマスターカードの情報が流出

●2月25日 社会保障番号など(120万件)

 バンク・オブ・アメリカが政府職員向けカードの情報を輸送中に紛失

●2月15日 社会保障番号、住所など(14万5千件)

 個人信用情報の収集・販売会社から企業を装ったハッカーらが情報を取得

〔朝日新聞〕


■少子化対策、何が有効か 政府・与党、意見割れる

 少子化対策には、いったい何が最も効果があるのか――。この難題を前にして、政府・与党間で意見が割れている。政府税制調査会が、税額を減らす新たな方式を検討課題に打ち出したのに対し、与党からは児童手当の対象や金額の拡充策の提言が相次いでいるのだ。子育て支援の施策は海外でもまちまちで、有効性の評価も定まっていない。財政が逼迫(ひっぱく)するなかで、社会保障と税制の一体的な議論が求められるのは、少子化対策も例外ではない。(日浦統、丸山玄則)

 日本の子育て世帯の家計に対する支援は現在、現金を給付する「児童手当」と税負担を軽くする「所得控除」の両建てとなっている。

 児童手当は、小学3年生以下の子どもが対象で、第2子までは1人年6万円、第3子以降には年12万円を支給している。対象児童は05年度予算ベースで約940万人、支給総額は約6400億円。ただし、夫婦・子ども2人のケースで、年収780万円未満という所得制限がある。

 税金を軽減する所得控除もある。0〜69歳までの扶養家族への「扶養控除」(所得税で38万円)と、16〜22歳の子どもに控除額を上乗せする「特定扶養控除」(同63万円)だ。扶養控除には親がかりで働かない成人なども含まれ、両控除の対象は約2577万人、所得税軽減額は総額約1・5兆円にのぼる。

 手当、控除とも拡充されてきたが、少子化は止まらない。

 政府税制調査会が、今春から検討し始めた「児童扶養控除」は、拡充策のひとつだ。子ども1人当たり一定額を納税額から直接差し引くタイプの控除で、欧米で導入が進んでいる。税率の高い高額所得者が有利になる現行の控除に比べ、低所得者層の恩恵が大きいという利点がある。

 日本総研の試算でも中所得者層に「有利」との結果が出た。現行の二つの扶養控除を廃止し、仮に22歳までの子どもに対し、1人当たり年間10万円の税額控除に切り替えた場合、年収400万〜700万円の中所得者層(子ども2人の4人家族)では、現行に比べ4万9千〜9万9千円の減税となるという。

 政府税調は、高齢化に伴う歳出増や財政再建をにらんで、近い将来の大幅増税を考えている。このため、「減税感」のある施策をアピールしたいという狙いもある。

 だが、政界では依然、児童手当重視の空気が強い。現金を渡す方が有権者に訴えることができるからだ。公明党は、東京都議選対策で、支給対象年齢を小学6年まで引き上げる方針を打ち出した。諸外国に比べ厳しい所得制限の緩和も求める。自民党若手議員の「少子化対策研究会」も3歳児までの児童手当の額を現行の3倍にするなどの緊急提言をまとめた。

●米英独仏、評価は定まらず

 「税か手当か」――。日米英独仏の主要5カ国の家計の支援制度を比べると、国によってまちまちで、有効性や評価が定まっていないのが現状だ。

 仏は日本のような所得控除と手当の両建て。米国は控除のみ。独は高所得者に有利な所得控除か、中低所得者に有利な手当(税額控除と一体的制度)かを選択する仕組みだ。最も支援策が手厚いのは英国。子どもがいる全世帯に児童手当を支給するほか、低中所得者層にはさらに税額控除を上乗せする。

 欧米では最近、納税額を控除額が上回る場合、納税免除だけでなく、逆に差額分を給付する制度も広がっている。実質賃金を引き上げる効果のほか、福祉依存が増えるのを防ぐ狙いもある。

 日本総研の湯元健治調査部長は「膨張しがちな手当に比べ、税額控除は一定の抑制が利く」として、税額控除を重視すべきだとの意見だ。

 そもそも、日本の子育て支援への財政支出は、まだ欧米に比べて少ない。経済協力開発機構(OECD)が先進30カ国を対象に、01年時点の家族政策への財政支出を比較したところ、日本は対国内総生産(GDP)比で0・6%。上位の北欧諸国は3%超の水準だ。

 《山口信夫・日本商工会議所会頭》 国が長期的な観点から財政投入すべきだ

 《細田官房長官》 出産後の女性の再雇用や男性を含む育児休業の取得の充実が必要だ

 5月10日開かれた政府と経済界・労働界による「子育て支援官民トップ懇談会」では議論はすれ違ったまま。財政危機が深刻化するなか、少子化社会をどうするのか、という官民の知恵は深まらない。

〔朝日新聞〕


■高血圧:
30歳代の単身赴任や独身男性、家族と同居の3.6倍−−外食中心で塩分過多

◇30歳代の単身赴任や独身男性、家族と同居している男性に比べ−−外食中心による塩分過多

 30歳代の単身赴任や独身男性は家族と同居している男性に比べ、高血圧(最高血圧140ミリHg以上、最低血圧90ミリHg以上)の割合が3・6倍に上っていることが、中電病院(広島市)の調査で分かった。外食中心による塩分のとり過ぎが原因とみられ、野菜や果物を多く食べるように心がけることが大切という。

 同病院の平賀裕之・内科副部長らが、中国地方にある企業の男性社員1570人(単身217人、家族同居1353人)を対象に調査した。高血圧の割合をみると、30歳代で単身14・9%、家族同居4・1%、40歳代で21・4%と13・8%、50歳代で27・6%と23・2%。若年層ほど差が大きかった。

 一方、カロリーのとり過ぎが原因の肥満や糖尿病は、単身と家族同居で差はほとんどなかった。また、同時に実施したアンケートでは、単身者は野菜や果物の摂取が家族同居より少なく、コンビニエンスストアの弁当やスーパーの総菜など、味付けの濃い食事を多くとる傾向がみられた。平賀副部長は「塩分の高い食事が高血圧の原因になっている」と分析した。

単身者はどのような点に注意したらよいのか。

 日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでは、1日の塩分摂取量は6グラム未満。平賀副部長は「日本人は平均して11〜12グラムを摂取しており、いきなり6グラムにするのは無理。予防という観点なら10グラム以下が一つの目安となる。まずは意識的に野菜や果物を多く取り、運動を心がけること」と助言する。野菜や果物には血圧を下げるカリウムが多く含まれており、運動も血圧を下げる効果があるからだ。「自分の健康を守る」という意識付けには自炊も有効。「公民館などでの調理実習に、社員が積極的に参加するような働きかけができないか」と提案する。

 大阪府立健康科学センターの北村明彦健康開発部長は「企業は健康診断の機会などを活用し、社員にバランスよい食事の心がけを説く工夫をしてほしい」と話す。【宇城昇】

<高血圧予防 単身者の注意点>

・味付けの濃いできあいの食事を控える

・塩分の1日摂取量の目安は10グラム以下

・意識的に野菜や果物を多く食べる

・バランスの良い食事を心がける

・運動は血圧を下げる。積極的に体を動かす・健康を守る意識付けに自炊も有効

・公民館などの調理実習に参加

〔毎日新聞〕


■美肌:
女性、最も追求 目的同じでも手段は…会社員「化粧品」、モデル「熟睡」

 女性が求めている美しさのトップは「美肌」。シリアルメーカーのケロッグ(東京都新宿区)が女性会社員らを対象にしたアンケートで、こんな結果が出た。昨年実施したプロモデルへの調査でも同様の結果が出たが美肌づくりのために気を使っていることについて、女性会社員は「化粧品」、モデルは「睡眠時間をたっぷりとる」がそれぞれ最多。目的は同じでも「外側から」と「内側から」とする意識の違いが浮かんだ。

 アンケートは1月にインターネットで実施。20〜40代の女性会社員らを対象に558人から回答を得た。「女性美で気をつけていること」(複数回答)については、「肌の美しさ」が84・4%と最多で、「健康管理」69・4%、「内面の輝き」69・1%が続いた。

 「美肌づくりに心がけていること」(同)は「化粧品」が74・6%で最も多く、「睡眠時間をたっぷり」52・6%、「便秘にならないようにする」51・9%、「バランスを考えた食生活」50・8%だった。

 一方、モデル105人への調査でも、「肌の美しさ」が85・7%で最も多かったが、「心がけていること」は「睡眠時間」が70・5%でトップ。「食生活」61・0%、「便秘」51・4%が続き、「化粧品」は43・8%の7位にとどまった。同社は「モデルさんたちは化粧品は手っ取り早いが、美しい肌を作り出すためには睡眠や食べ物が大事ということを意識しているのではないか」と話している。【下桐実雅子】

〔毎日新聞〕


2005.06.19

■命の綱、地方に動き 自殺予防、44都道府県市が施策


 都道府県と政令指定市の7割以上が独自の自殺予防対策事業に取り組んでいることが、朝日新聞の調査でわかった。国内の自殺者は98年に一気に約8千人増えて3万人を超え、昨年まで7年連続して3万人台が続く。日本の自殺率は世界でも高い方に位置し、厚生労働省は自殺者を減らそうとしているが、予算は過去最大となった今年度も8億円止まり。国が有効な手を打てない一方で、地方の取り組みが活発化してきた。(奈賀悟、杉山正、木野正章)

●脱タブー 真剣さ増す 冊子や講演、民間の相談電話支援

 調査は国立精神・神経センター精神保健研究所(東京都)の竹島正・精神保健計画部長の協力により、47都道府県と14政令指定市を対象に今月実施した。

 自殺予防事業については36都道府県と8市の計44都道府県市が「実施している」「今年度中に実施の予定」と答えた。事業化の時期は29道府県市が02年度以降と回答した。自治体の取り組みはここ数年で活発化してきたようだ。

 具体的には、大阪府など37自治体が自殺とうつの関連を記したパンフレット作りなど「自殺予防啓発」事業を実施。「いのちの電話」など民間活動支援には東京都など27自治体が取り組む。

 事業名に「自殺予防」などと、「自殺」を明記しているのは北海道など15道府県。これ以外は「自殺と明記しては刺激が強い」などを理由に、事業名を「心の健康」「うつ病対策」などとして予算を組んでいる。

 竹島部長らが02年に行った同様の調査では、事業名に自殺と明記した自治体は8県市だけ。3年間で倍増した。

 竹島部長は「秋田県などが自殺をタブー視しないで正面から取り組み、予防に成果を上げた結果、明記する自治体が増えてきた。自殺は社会全体を視野に入れないと解決できない。地域の様々な団体がそれぞれの領域で動くことが予防のかぎだ」と話している。

●地域と連携、きめ細かく

 自殺率(人口10万人当たり)が昨年まで10年連続全国ワースト1の秋田県。00年度に「自殺予防」を事業名に掲げて県民に訴え、総合的な予防対策を本格化させた。

 特に自殺者が多かった6町をモデルに、従来のうつ病対策に加えて健康教育や悩み相談をきめ細かく実施した。自殺の不安がある人に強く関与する手法で、01年に計30人に上った自殺者は昨年、13人に減った。

 さらに自殺予防の考え方を地域に広く浸透させようと、県内8カ所の地域振興局ごとに「自殺予防ネットワーク」をつくる。計画では保健師が事務局を担当し、農協、医師会、商工会、社会福祉協議会や警察などが参加。各分野で自殺予防に取り組み、併せて各地の講演会などに講師を派遣する。勉強会も開く。

 県健康対策課の担当者は話す。「ネットワークで地域の力を引き出すこと。個々が実施してきた事業の中に、自殺予防の観点をいかに採り入れられるかが成否の鍵だ」

 大阪府は03年度、人口の多い都市部では啓発活動が有効と考え、事業展開を急いだ。年2千人以上で推移している府内の自殺者数を、2010年までに1500人に減らすのが目標だ。

 事業内容は府民に案を募った。家族や友人が自殺した人などの体験談を「自殺防止に役立つ体験談・アドバイス集」として冊子にまとめ、相談窓口の連絡先も掲載して自殺防止のシンポジウムなどで配った。うつ病のチェック、多重債務や医療、法律など悩み別の相談電話の番号一覧を掲載したテレホンカード大の小冊子も作った。

 今年度は、自殺防止のホームページを作り、体験談を紹介、関連団体にリンクさせる。また、体験談をもとにした創作劇や発表会も計画中だ。

 徳島県は今年度、「自殺予防対策推進事業」として150万円の予算を組んだ。うつ病対策の相談事業などはこれまでも進めてきたが、今回は「自殺」という言葉を初めて前面に出した。

     ◇            ◇

◆施策実施の自治体

 自殺予防事業を「実施」「実施予定」と回答した自治体は次の通り。

 【都道府県】北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、群馬、埼玉、千葉、東京、新潟、富山、石川、長野、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、徳島、愛媛、福岡、佐賀、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄

 【政令指定市】仙台、さいたま、千葉、横浜、静岡、京都、神戸、福岡

     ◇            ◇

◆国家戦略で減少例も 欧州

 欧州各国の自殺予防対策はここ30年間で本格化した。先駆けたフィンランドでは目に見える効果も確認されたという。

 旧ソ連諸国や東欧では自殺率が高い傾向にあるが、専門家によると、本格的な原因究明は今のところ、なされていないという。

 ●日本

 厚労省が自殺予防対策を担い、01年度に初めて関連予算3億円余がついた。05年度は8億5500万円。

 同省は2010年に自殺者数を2万2千人に減らすことを目標に、うつ病対策の研究や産業医の研修、いのちの電話支援などを進めている。だが、内容はうつ病対策に特化しており、例えば、ここ数年で急増した借金やリストラなど経済苦の自殺には対応できないとする批判が根強い。

 ●フィンランド

 秋田大医学部の本橋豊教授(公衆衛生学)によると、86年、世界に先駆けて「国家自殺予防プロジェクト」が始まった。

 86〜91年を「研究期」とし、専門家チームが自殺の原因究明を急いだ。92〜96年の「実行期」には自殺予防にかかわる各分野の関係者がネットワークをつくり、連絡を取り合いながら対策を実施した。基本の集団は地域、職場や軍隊などで、例えば軍隊では将軍が自殺予防を訴えた。

 「評価期」の97年、86年と比較して自殺は9%減少。「少なくとも自殺率の増加傾向を反転させることに成功した」と評価された。本橋教授は「フィンランドでは、うつ病対策はごく一部。社会全体を活性化させるモデルで成功した」と分析する。

 ●イギリス

 自殺率は日本の約3分の1だが、自殺予防は社会的関心が高い。02年9月、国立精神衛生研究所が初の「自殺防止国家戦略」を実施に移した。2010年までに自殺率を20%減らすことを目指し、「自殺の危険性が高い人への介入」「貧困層や虐待被害者など幅広い人々のケア」「(市販される睡眠薬のパッケージを小さくするなど)自殺に用いられる物を減少させる」などの目標を掲げた。

 調査した中山健夫・京都大大学院助教授(健康情報学)は話す。「自殺率は低下しつつあり、戦略は成果を上げた。現状に合わせてプログラムを修正し、柔軟な対応をしている」

〔朝日新聞〕


■(死ぬな!:読者の投書から)痛み悲しみ、抱えつつ

 社会面連載「死ぬな! 自殺3万人時代に」に、メールや手紙が200人近い読者から寄せられました。過去に死を考えた体験や家族を失った苦しみなど、何らかの形で自殺にかかわった方々からのお便りが大半です。投書の一部と専門家の提言、相談窓口を紹介します。(錦光山雅子)

◆死のうとしたら、母の電話

 19歳で借金地獄に陥りました。毎日のように督促の電話がかかってくるので、いつからか身の回りの「音」に恐怖を感じていました。アパートの階段を上り下りする音。車のドアを閉める音……。安心して眠ることもできず、ある早朝、自殺を決意しました。

 また嫌な一日が始まる。苦しみから早く逃れたい。考え抜いた方法で実行しようとした時、電話が鳴りました。母からでした。無言の私に何かを感じたらしく、母は「次の休みに帰ってきなさい! 変なことしたら許さないからね!」。圧倒され、自殺は未遂に終わりました。

 久しぶりに実家に戻り、すべてを話しました。母は涙を流し、私のほおを2回殴りました。「なぜ相談しなかった! このバカが!」

 数日後、消費者金融から借金完済の通知がありました。母が、亡父の保険金で返済してくれたのです。「また新しい自分で生きていきなさい」。母の言葉は、今も耳に残っています。(静岡県 会社員男性 24歳)

◆精神科、通った末に2度未遂

 昨冬、2度自殺を試みました。借金苦でも失業でもありません。職場で笑顔の同僚が、実は深い心の闇に捕らわれていることがありうるという警鐘を、少しでも伝えて頂きたいと思います。2度の自殺未遂は、2年近く精神科に通った揚げ句の行動でした。だから、社会で「死のうとする前に精神科へ」と決まり文句のように言われるのが気になります。

 精神科に行くことには意味があると思いますが、死にたいと思っている人が精神科の扉をたたく前に知っておいて欲しいのは、医師は神様ではないということです。精神科は外科的に「死にたい」気持ちを取り除いてくれるところではありません。「死にたい」という心理が「正常ではない状態」だと本人に自覚を促し、病識を持たせ、自ら治そうという意思を持てるよう「手助け」をしてくれるところです。精神科医も人間です。初診で患者の人生のすべてを把握するのは不可能で、治療は何年にもわたることもあります。

 私の場合は治療が軌道に乗り、最悪の状態からは抜け出せましたが、精神科の役割を理解せず、単純に「病院へ」と促しても、「なんだこの程度か」となり、治療は進まないでしょう。(大阪府 会社員女性 33歳)

◆死ぬ勇気あるなら生きて欲しい

 2人目の子の出産を目の前にしていたこの春、父が自殺した。病院に駆け付け、自殺と知って崩れた。父は帰宅後、夕飯をとり、入浴し、またスーツに身を包み、携帯電話の履歴などすべてを消して行動に移した。遺書はなく、後で、亡くなる1週間前に仕事を辞めていたことがわかった。

 最後に父と会ったのはひなまつりの日だった。前日に体調を崩した私の長男を心配し、母と見舞いに来てくれたのだ。

 でも、なんで? 最後に会った時、私の家の大掃除をしに泊まりがけで来ると約束したのに。息子とも遊ぶ約束をしたのに。「待ってるね」という手紙を息子なりに頑張って書いたのに。その返信を投函(とうかん)した日に、どうして死んだの。

 自殺というのは、そんなものなのでしょうか? そんな勇気があるなら、生きて欲しいと願うのは私だけでしょうか? 仕事辞めててもいいじゃない。生まれてくる孫を見たり、娘を手伝ったりする大きな仕事があるのに……。悲しかった。

 複雑な思いで過ごした日々は本当にサクラがいっぱいだった。毎年、サクラをみるたびに、「会いたい」という思いが膨らみそうです。(東京都 主婦 30歳)

◆借金で母が死ぬなんて

 5年ほど前から多重債務者の心のケアをしたくてボランティアを続けています。前夫の事業の失敗から多重債務に陥り、リストカットなどを繰り返していましたが、多重債務者の支援団体の方々の支えで立ち直ったのがきっかけです。

 ボランティアを始めてからは仕事も順調で生活も安定しました。ところが昨夏、ただ一人の肉親だった母が自殺したのです。母の多額の借金が分かり、法的手続きを進めようと思っていた矢先のことでした。

 年金を担保にしていて、出る度に業者が90%を引き出していました。母にとっては「死ね」と言われたも同然の状況でした。

 結局は見殺しにしたのと同じだと思い、私も死を考えました。押しとどめたのは「子どもを大切に」という母の遺言でした。その言葉を胸に息子の成長を見届けようと思っています。同時に母の死を無駄にしないためにも、借金苦などで死ぬ必要はないと、今後も訴えていくつもりです。(兵庫県 主婦 44歳)

◆文通相手の一言 生きる支えに

 数回、自殺を考えました。鮮明に覚えているのが15歳の時。いじめに家庭崩壊が加わり、どこにも自分の居場所がなく、苦しくて刃物を手に押し当てようとしました。

 思いとどまらせてくれたのは文通相手です。彼には自分がいじめられていることを告白していました。きっかけは彼も不登校気味という話を聞いたからでした。

 修学旅行先から送られてきたはがきには「ぼくもガンバるから、あなたもガンバってね! でも無理は絶対にダメだよ」と書いてありました。私は泣きながら何度も、何度も読み返しました。今でも彼に生かされたと思っています。

 自殺志願者は、本当はどこかでSOSを発しているのだと思います。誰かに自分の苦しみに気付いて欲しい、と。数年前まで「あの時死ななくてよかったのか」と自問する日がありましたが、今はそうした思いはありません。「あの時に比べたら……」という思いがあるのかもしれません。(東京都 アルバイト女性 22歳)

◆相談先の情報提供を

 厚生労働省の03年の統計では、練炭を用いた自殺が急増しているとのことだった。これは練炭を使った集団自殺の報道が盛んだったことと関連があるのではないか。

 メディアの使命は事実の報道であり、報じるのは当然だ。しかし、そのことで新たな自殺が引き起こされるなど、マイナスの影響が想定される場合、具体的な防止策を含めた、踏み込んだ報道が必要ではないか。

 自殺方法や場所を報道しないよう配慮する国がある一方、シンガポールのように、自殺の記事を掲載する場合には必ず自殺防止団体の連絡先を同時に掲載する国もある。

 欧米の電話帳では、自殺防止団体の電話番号を「緊急の電話番号」として、警察や消防、救急車などの電話番号と同様の場所に載せている。

 私の弟は99年に過労自殺した。前年に自殺者が初めて3万人を超え、弟も自殺前夜、友人との会話で自殺者の増加傾向に触れていたという。

 長時間労働が蔓延(まんえん)する時勢、遺族になって痛切に思うのは、自殺を少しでも思いとどまらせる環境があれば、ということだ。メディアを通じ自殺防止団体の連絡先がすぐに分かるような状況にしておく必要がある。(東京都 諏訪裕美子さん 42歳)     ◇            ◇

◆困ったとき、悩んだときは

●日本いのちの電話連盟

 事務局:03・3263・6165(平日10時半〜17時)http://www.find−j.jp 全国55カ所で受け付け

●東京自殺防止センター

 03・5286・9090(毎日20時〜翌朝6時)http://www1.odn.ne.jp/〜ceq16010 自死遺族の会・面接も

●大阪自殺防止センター

 06・6251・4343(24時間) http://www4.osk.3web.ne.jp/〜befriend 自死遺族の会・面接も

●猫次郎経営研究所(吉田猫次郎さん)

 03・5297・0006(月〜土曜10時〜18時)http://www.nekojiro.net 倒産回避の相談を実施

●全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会

 03・3774・1527(平日13時〜17時) http://www.cre−sara.gr.jp

●過労死110番全国ネットワーク

 03・3813・6999(平日10時〜17時) http://karoshi.jp

●あしなが育英会

 03・3221・0888(平日9時〜17時、土曜は正午まで) http://www.ashinaga.org 遺児への奨学金や心のケア

●リメンバー神戸・名古屋・福岡

 http://www.hospice.jp/jishi−izoku 自死遺族の会を定期開催

     ◇            ◇

◆総合的な予防対策急げ 田村毅・東京学芸大助教授(精神科医)

 「死にたい」という気持ちを持ってしまった人たちを、どう支えるか。

 まず医療面だが、日本では精神科にかかることがタブー視されている。精神的な問題は誰にでも起きうる。気軽に受診できる仕組みが必要だ。とはいえ、医師にかかれば自殺願望が治まるとも言い切れない。

 医療がかかわれるのは自殺者のごく一部だ。自殺者がうつなどの精神病だとは限らない。そう考えると医療以外の予防活動も欠かせない。

 朝日新聞の連載に対する投書を読むと、家族や文通相手が自殺を思いとどまらせたケースが少なくない。人との関係の回復が自殺の衝動を救う。

 弱さを認めない世の中で、「死にたい」という気持ちを抱いている人は孤独だ。自分の存在を見失い、最終的に死に追いつめられてしまう。だが、孤独だと思っている人も、その痛みを理解してくれる人がいれば生きていける。

 こうした役割はいのちの電話などの民間団体が担っているが、多くは資金力も乏しく、行政の支援が欠かせない。都道府県などの精神保健福祉センターが中核になり、地域の資源を生かしたネットワークを作る必要がある。

 国の対策も十分ではない。医療面だけではなく、福祉、教育、産業、そして民間への支援も含めた総合的な自殺防止対策を真剣に考えてほしい。

〔朝日新聞〕


■(幸せ大国を目指して:12)急速に老いゆく東京


東京圏の人口はこれから…

 全国から若者をのみ込み続けてきた東京が今後数十年で急速に老いていく。

 国立社会保障・人口問題研究所の試算によると、2030年までの高齢化のスピードは、東京都に神奈川、千葉、埼玉の3県を加えた「東京圏」が全国で最も速い。東京圏の老年人口(65歳以上)は00〜30年に2倍近く膨らみ、925万人に膨れ上がる。いま最も高齢化が進んでいる島根県の老年人口は00年の約19万人からそれほど増えない。

●予備軍が集中

 東京の高齢化が速いのは、団塊の世代とそのすぐ下の世代、いわば「高齢者予備軍」の世代が集中して住んでいるからだ。07年以降、この世代の大量退職が始まれば、日本の生産人口も本格的な減少時代に入る。

 その時を予感させるような動きが、オフィスが集まる東京都中央区で出ている。サラリーマンやOLでにぎわっているはずの同区で、昼間人口が00年までの10年間に10万人減り、65万人にまで落ち込んだのだ。日本経済の長期低迷や企業のリストラが進んだ影響と見られる。

 もともと同区が迫られていた問題は、地価高騰で住宅が郊外に追い出され、居住人口が減ることだった。ところがこちらは8年前に底を打ち、「今や最大の課題は昼間人口の減少」(吉田不曇・中央区企画部長)だ。これに伴う経済損失は「ざっと500億円」と同区は、はじいている。

 東京23区で働く人の数は約700万人(00年)。ピークだった95年に比べて27万人減った。とくに政治と経済の中枢機能が集まる中央区、千代田区、港区の3区での減少数が多い。

 都は20年までに23区でさらに50万人が減少すると予測する。

●「もはや大規模プロジェクトの場所でない」

 ところが、こうした見通しを無視するかのように都心では再開発ブーム、大型マンションの建築ブームが起きている。今後5年間で「毎年70万平方メートル以上のオフィスビルが新規供給される見通し」(ニッセイ基礎研究所)だ。約17万人が働くスペースに相当する。

 松谷明彦・政策研究大学院大教授はこの動きに警鐘を鳴らす。「東京はもはや白地に絵を描くような大規模プロジェクトをする場所ではない。現在進行中のプロジェクトは、経済成長期の最後のあだ花になりかねない」

●「ミスマッチ」

 少子高齢化と再開発ラッシュ。矛盾する現象がさまざまな場所でミスマッチを起こしている。

 「これ以上、うちの区にマンションはこないで」

 工場跡地への建設ラッシュがあった東京都江東区は昨年1月、大規模マンションが立ち並ぶ豊洲や東雲など7地域でのマンション建設を条例で事実上、禁じた。急増した児童の受け入れ態勢が整わない小学校が続出したためだ。

 区が「異変」に気づいたのは4年前だった。建設が予定されていた千戸規模の大規模マンションの入居者調査をしたところ、5分の1の世帯に小学生の子どもがいた。3分の1の世帯には今後入学してくる6歳以下の子どもがいた。20〜30代の団塊ジュニア世代が一斉に流れ込んできたのだ。

 プレハブ校舎を建てるとしても敷地が狭い小学校が多く、児童の増加に対応する余裕はほとんどなかった。区の措置で約5千戸分のマンションが計画の中止や変更を迫られた。

 多くの地域で子どもが減っている中で、子どもを伴う若い世代が増加することは本来なら歓迎すべきことだ。ところが区にとって悩ましかったのは「無理に校舎を建てても、15〜20年後には少子化で学校施設が余ってしまうのが確実」(佐瀬慎一郎・江東区住宅課長)ということだった。

 一足先にその懸念を証明したのが東京・多摩ニュータウンだ。高度成長期の70年代初期に入居が始まった多摩市では、この10年余でニュータウン人口が1万7千人減り、7万1千人になった。

 初期の団地はエレベーターのない5階建て、広さ約50平方メートル・2DKの間取りが多かった。このため、広い家を求めて住み替えたり、子が親から独立したりするケースが増えている。

 街はお年寄りから子供まで多彩な世代、階層がいるからこそ、代替わりを続けても街として生き続ける。開発初期の多摩ニュータウンは、団塊の世代とその上の世代が一斉に入居したため、いびつな人口構成となり、多くの住民が一斉に高齢化し、小学校は統廃合を余儀なくされた。

 NPO「多摩ニュータウンまちづくり専門家会議」の秋元孝夫代表はその反省から、70代の一人暮らしや30代の若夫婦などさまざまな人が入居できるマンションづくりを進めている。

 1階にはデイケアの託老所も入れ、その家賃をマンションの管理費や修繕積立金にあてる。入居する25世帯とは間取りから話し合い、将来のリフォームの時に簡単に変更できる構造にする。「3世代・百年使い続けられるマンション」をめざす。

●本格的人口減

 オフィスや住宅、道路などの都市基盤が不足していた時代には、まず供給量を増やすことが求められた。急激な高齢化とその後にひかえる本格的な人口減少は、その政策の前提を崩す。小学校が不足する地域が一部にある一方で、統廃合が必要な地域が増えている現象はその一例だ。

●保全や再利用、重視を

 東大先端科学技術研究センターの大西隆教授は、今後、需要がなくなって見捨てられる土地や建物が増える恐れがある、と指摘する。

 「それを防ぐためにはデフレ型都市政策に転換すべきだ。これからは新しい建物を造ることより、都市に残る農地保全や水辺の確保などの方が重要になってくるのではないか」

 「使い捨て」でなく「リサイクル」。モノだけではなく、老いる巨大都市・東京にも、そんな工夫が求められる時代がきている。(田中郁也)

〔朝日新聞〕


2005.06.18

■老後不安で脚光「逆住宅ローン」 家を担保に生活資金


 高齢者に、その自宅を担保に老後の生活資金を貸す「リバースモーゲージ」を展開する民間企業が増えてきた。契約者が死亡した時点で担保の土地や建物を売却し、一括返済してもらう「逆住宅ローン」のような仕組みで80年代末に一時盛んになりかけたビジネスだが、その後の地価下落で根付かなかった。だが最近、公的年金の先細りなど高齢者の将来不安の高まりと地価の下げ止まりを背景に、再び脚光を浴び出した。(丸石伸一)

●大手銀、10年ぶりに

 中央三井信託銀行は今月、東京都内の70代の男性と、その所有住宅を担保に、80歳まで毎年、合計で約4千万円まで融資する契約を結んだ。3月末から大手行としてはほぼ10年ぶりに販売を始めたリバースモーゲージの初契約だ。ほかにも約10件の契約が6月中に見込めるという。

 首都圏と大阪、名古屋の3大都市圏で、土地の担保評価が7千万円以上の自宅を持つ65歳以上の高齢者が対象。80歳までに、元利金累計額が担保価値の半分に積み上がるまで毎年、一定額を貸す。

 提携先の三井住友海上火災保険の終身年金保険に加入すれば、80歳以降も保険の給付金で老後資金を得られる。

 住宅メーカーも販売てこ入れ策として、ノンバンクと提携して参入している。

 旭化成ホームズは、04年初めに「住み替え型」のリバースモーゲージを開始。子どもがすでに巣立った高齢者には、設備の新しい都会のマンションや老人ホームに住み替えたいという気持ちがあるものの、自宅も手放したくない。そこで、自宅を担保に転居資金を貸し出す。

 その高齢者が亡くなった後に担保の自宅を若い世代に販売し、中古住宅の市場を広げることもめざす。「丈夫で長持ち」を売り物にする同社ブランド「へーベルハウス」の認知度を高めることも狙いの一つだ。

 リバースモーゲージは90年代の米国で本格普及し、日本では東京都武蔵野市が81年、現金収入の少ない資産家向けの福祉制度として初導入。土地関連の金融取引に強い信託銀行も、富裕層向けで追随し、資産家の獲得競争に走った。

 だが、バブル崩壊後の担保価値の急落で、契約時の想定よりも融資額が大幅に減少。融資打ち切りや、親族との担保処分をめぐるトラブルなどが相次いだ。このため、大手行は92〜93年に事実上撤退していた。

●地価安定も追い風

 そもそも日本では「自分が築きあげた資産は子や孫にのこす」という意識が強いため、リバースモーゲージの需要も限りがあると見られてきた。

 だが、65歳以上が人口に占める比率はすでに約2割に達し、10年後には4人に1人に高まる見通しだ。家を継ぐ子どもの数も少子化で減っている。高齢者の将来不安も高まり、「余裕を持った老後生活のためには、年金や預金だけでは足りない、という不安による需要が出てくる」(中央三井信託銀の担当者)という見方が浮上してきた。

 政府・与党が16日まとめた重要政策の基本方針「骨太の方針2005」の最終案には、医療費を抑えるための「政策目標」の設定が盛りこまれた。04年度の年金改革に続いて、医療費の抑制も決まれば、高齢者は生活資金をいっそう絞り込まれる恐れがある。

 一方、地価の下げ止まり傾向に、バブル崩壊直後のような融資側の「担保割れ」不安が和らいできた。国土交通省が3月に発表した05年の公示地価では、東京都心部の住宅地が17年ぶりに上昇に転じた。

 厚生労働省も02年度から、都道府県の社会福祉協議会を実施主体にしたリバースモーゲージである「長期生活支援資金制度」を導入。今年3月末までに約270件の実績がある。

 こうした「追い風」を受け、中央三井信託銀は高額の資産を持つ「富裕層」の囲い込みを狙う。リバースモーゲージの受注を資産家との取引のきっかけにして、信託業界で競争が激化している遺言信託などの受託につなげ、契約者の資産管理を一手に引き受けようという思惑だ。投資信託などの運用商品の取引拡大なども視野にある。

 ただ、再び地価が急落すれば、契約者とのトラブルが起きるなどリバースモーゲージのリスクは残る。このため、ほかの信託銀行は「受注が増えるかどうかは未知数」とまだ慎重だ。だが、各行とも再度の参入に関心を示す。「団塊の世代」が定年を迎える「2007年問題」を控え、中央三井信託銀の受注状況次第では、再び導入が広がる可能性もある。

〔朝日新聞〕


■スター・ウォーズ:
100時間テレビドラマ化

 人気SFシリーズ映画「スター・ウォーズ」のテレビドラマ版が誕生する。シリーズ最終作「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」(7月19日公開)のプロデューサー、リック・マッカラム氏(52)が16日、都内で来日記者会見し、明らかにした。

 ジョージ・ルーカス監督(61)が現在手掛けている「インディ・ジョーンズ」のシリーズ第4弾のシナリオを書き終えた後、脚本に取り掛かる予定。舞台は「エピソード3」から、77年(日本では78年)に公開されたシリーズ第1作までの約20年間。キャラクターたちの出会いや主人公ルークの成長を描く。来年製作を開始し、約100時間のドラマに仕上げる予定。また、「2、3年後にはシリーズ全6作に3D効果をつけた“3Dバージョン”を公開するよ」と笑顔で話した。

〔スポーツニッポン〕


2005.06.11

■文学賞に異変 審査員から作家外し 権威より販売促進


 文学賞の創設が、戦後何度目かのブームになっている。出版物の販売が振るわない中、売り上げ向上を意識した賞が多いのが特徴だ。選考委員から作家を外す傾向が広がり、芸能人や書店員、読者など書き手でない人が並ぶ。芥川賞・直木賞の創設から70年。文学賞は才能発掘や顕彰から、出版社の「賞ビジネス」としての側面を強めつつある。(野波健祐)

 「日本ラブストーリー大賞」。宝島社が今春、「今世紀最高の恋愛物語」(同社)の刊行をめざして募集を始めた賞だ。「恋愛」が入った小説ならジャンルは不問。受賞作は映画化される。

 この数年、「世界の中心で、愛をさけぶ」など純愛小説が大ベストセラーになっている。「女性読者の掘り起こしが目的です。読者のニーズを知るには、新しい価値基準が必要。時代感覚に敏感な方に、選考委員をお願いしました」と同社の関川誠取締役は話す。

 若者に人気の歌手・大塚愛さんと俳優・成宮寛貴さん。さらに漫画家の柴門ふみさんにファッション誌編集長……。異色のメンバーだ。

●ネット使い投票

 「青春文学大賞」を先月新設したのは角川書店の小説誌「野性時代」。

 「田中康夫も村上春樹も、この30年のベストセラーはみな青春小説と位置付けています。読者とともに新しい才能を探す草の根的な賞の仕組みを作りました」と同誌の堀内大示編集長はいう。

 3、4本にしぼった最終候補作をネットで公開し、読者からの人気投票を受けつける。その結果も参考に、同誌編集者に書店と読者の代表が加わって受賞作を選ぶ。

 「感動ノンフィクション大賞」の創設は、幻冬舎が今月、発表した。読者の共感を得られるような日常の実話から生まれる「感動の物語」を募っている。

●「博士」が火付け

 文学賞とビジネスは元来不可分の関係にある。芥川賞・直木賞も、「文芸春秋」誌の売り上げが落ちる2月と8月の販売促進を狙い、菊池寛が発案したとの説がある。ただ、最近は賞が乱立、一部の賞を除いて販促効果は薄くなっていた。

 今回の賞ブームのきっかけとして衆目が一致するのは、03年創設の「本屋大賞」の成功だ。第1回受賞作「博士の愛した数式」(小川洋子著)は受賞前10万部の売れ行きが1年で40万部を超え、第2回の「夜のピクニック」(恩田陸著)も受賞から2カ月で、9万部が21万部となった。

 同賞は全国の書店員が手作りで運営し、年間で最も優れた小説をネット投票で選ぶ。「打倒、直木賞!」が旗印で、「出版不況の中、書店自らベストセラーを生み出す」(運営に携わる杉江由次さん)のが目的だ。

 杉江さんは「作家が選ぶ直木賞は、読書好きに人気がある作家でも受賞が遅かったり、取れなかったりする。書店員が店頭で実感するギャップを埋めたかった」という。

 文学賞は権威付けのために選考委員に作家を起用してきたが、販売促進のためには不可欠ではない――出版業界に「学習効果」が生まれた。

 文学賞の選考を検証した「文学賞メッタ斬(ぎ)り!」の共著者、大森望さんは、多くの人が納得する作品を選ぶ本屋大賞やその影響を受けた新設賞を、ビジネスの観点で評価する。「自分の狭い好みから減点式で選考する作家より、客観的にきちんと読めている非作家が選ぶ方が健全です」

 これに対し、三島賞選考委員を務める作家の島田雅彦さんは「著者の成熟や挑戦、たくらみを読み取る能力は作家に分がある。新しい賞は短期的ビジネスにはなっても、日本語の富を蓄積することはできないでしょう」と疑問を挟んでいる。

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◆キーワード

〈文学賞〉 「最新文学賞事典」(日外アソシエーツ、04年刊)によると、全国に450以上あり、発表済みの作品を対象に選ぶ賞と、未発表作品を公募して選考する賞に大別される。賞金額は「このミステリーがすごい!」大賞の1200万円から0円(メフィスト賞など)まで。80年代にはメディアミックスを前提に高額賞金を掲げる賞が、90年代には「ふるさと創生基金」をもとに地方発の文学賞が次々と作られた。

〔朝日新聞〕


2005.06.09


■(核を追う)米の北朝鮮戦略、軍事作戦はリスク大

 核兵器が独裁者に渡るのを防ぐには、先制攻撃も辞さない。「ブッシュ・ドクトリン」からは、米政権の強烈な「力の信奉」がにじみ出ている。この戦略の適用第1号がイラク戦争だったが、北朝鮮をめぐる状況はまったく異なる。万が一、軍事作戦を展開した際のリスクも極めて大きい。(坂尻信義、梅原季哉)

●ほど遠い「限定空爆」

 米政府は5月半ば、朝鮮戦争で行方不明になった米軍兵士の北朝鮮での遺骨捜索活動を一時的に中断すると決定した。その瞬間も、米軍関係者約30人は北朝鮮の平壌近郊と北東部の2カ所で、武装した北朝鮮軍兵士たちに監視されながら、捜索活動にあたっていた。

 米軍関係者たちが無事北朝鮮を離れた翌々日の同月25日、米軍太平洋司令部が「中断」を公表した。今年の第2陣約30人の北朝鮮入り予定から3日前のことだった。

 北朝鮮での遺骨捜索は、今年で10年目。米国防総省は同盟国に対し「北朝鮮が用意する通信機器に問題が生じた。米軍関係者の安全確保のためだ」などと説明した。

 だが、米政府筋は「それはいまに始まった問題ではない」と指摘する。「捜索を中断した理由は、米軍がこれからやるかも知れないことが北朝鮮の反発を招き、米軍関係者が人質にされることを恐れたからだ」。米軍が「これからやるかも知れないこと」の中身について、同筋は「私にはわからない」と語った。

 遺骨捜索の中断が発表された翌日、米空軍はステルス戦闘機15機を在韓米軍に派遣すると発表。国防総省によると、派遣は数カ月前から検討されていたが時期が偶然重なった。「北朝鮮への圧力を強化する上で、グッドタイミングだった」と米政府の強硬派は振り返る。

 ステルス機が38度線を越え、ピンポイント攻撃を北朝鮮の核関連施設に加える――そんなシナリオが現実味を帯びつつあるかのように見える。

  ■   ■

 94年の朝鮮半島核危機に当事者としてかかわったアシュトン・カーター元国防次官補は03年、朝日新聞記者に「北朝鮮が使用済み核燃料棒の再処理を始めたら、ピンポイント爆撃を検討せざるを得ない」「空爆には一晩あれば十分だ。地図を広げ、破壊すべき寧辺の建物を数えたらいい」と語ったことがある。

 しかし、当の米政府内では、軍事作戦の可能性については、「すべての選択肢を排除しないというのが建前だが、実際は限りなく0%に近い」(国防総省関係者)という声が圧倒的だ。

 7日付の韓国紙・朝鮮日報は、稼働している寧辺の核施設に限定した攻撃でも、半径50キロ以内で2カ月以内に80〜100%が死亡するなど大被害が予想される、との韓国軍当局の試算を明らかにした。「ピンポイント」にはほど遠い。

 標的選定作業も容易ではない。米軍関係者は、「ウラン濃縮計画の所在が私たちにはわかっていない。分散しているかも知れない。寧辺をたたいても核開発の芽は摘み取れない。94年とは時代が違う」と明かす。

 米朝枠組み合意の履行プロジェクトで寧辺に滞在した経験があるアルベラス元エネルギー次官補は「北朝鮮は核を扱う際、安全よりも国家目標を優先させる」と指摘する。北朝鮮は核物質を扱う施設を、要員が被曝(ひばく)する可能性などお構いなしに地下に分散する可能性があるという。

 韓国の聯合ニュースは今年1月、北朝鮮がこれまでに約8200カ所の地下施設を建設したとみられる、とする韓国国防省の見解を伝えた。

 実際は何もないおとりの地下施設と、真の核関連の標的を見分けられるだけの決定的な情報がなければ、攻撃対象の数は増えざるを得ない。結局「限定空爆」のみで作戦を終わることは難しくなり、全面戦争の可能性が極めて高くなっていく。

  ■   ■

 全面戦争にまで拡大した場合、最終的に米韓連合軍が軍事的な勝利を収めることを疑う専門家はまずいない。それでも、朝鮮半島の通常兵力のバランスからみて、戦禍は米韓側でも悲惨なものになることは必至だ。

 北朝鮮軍は、軍事境界線近くに、多連装ロケット砲など数千門にのぼるともいわれる火砲を重点配備している。ソウルには1時間50万発の砲弾が降り、最初の24時間での死傷者が100万人に達するとの推計もある。

●「不拡散」が最優先

 モントレー国際研究所不拡散研究センターのスペクター副所長は「北朝鮮が枠組み合意を捨て去る決意をしたのは、イラク戦争で『次は自分たちだ』とみたからだろう。だが、今は逆にイラクで起きている事態を見て、(自分たちへの攻撃は)あり得ないと確信している」と分析する。

 イラクに米兵が10万人を超える規模で展開している中では、朝鮮半島での「もう一つの戦争」は、軍事的リスクが高すぎるからだ。

 専門家の間では「米国は現実には、もはや北朝鮮の核保有を黙認せざるを得ない」という見方すら強まっている。事実上の黙認を前提として、核保有を宣言したが実態は不明な北朝鮮との関係を定義する「北朝鮮モデル」という表現を使う米政府当局者もいる。

 ただし、それでもなお米国が「譲れない一線」として、「テロリストやほかの『ならず者国家』へ北朝鮮が核兵器を輸出する」という事態が想定される。

 そのような「外部への不拡散」を最優先課題とする観点からみると、北朝鮮の崩壊は問題解決につながるとは限らない。むしろ、国内情勢が不安定さを増した結果、体制が崩壊し核のコントロールが揺らぐような事態は避けたい、という思惑の方が強い。

 米軍が韓国軍と、北朝鮮の崩壊など政変シナリオを想定し、核関連施設を制圧下に置き核物質の流出を防ぐ作戦計画「5029」の策定を進めたのも、同じ論理だとみられる。この作業は1月、「主権侵害だ」とする韓国政府の判断で中断されたが、米軍が今後も同様のシナリオを追求する可能性は消えていない。

●抑止力中心、切り札も模索 地中貫通型を研究

 北朝鮮を対象とした軍事作戦の立案の中で、米軍は自らの核兵器をどう位置づけているのか。

 「北朝鮮との全面戦争を扱った機密作戦計画『5027』には、核による攻撃を扱った『補遺』が存在してきた」。90年代に米軍の核政策の遂行に最高レベルでかかわった元司令官はそう証言する。

 「94年の核危機の際に、もし北朝鮮が大量破壊兵器を実際に使用するようなことがあれば『重大な結果を招くことを覚悟するべきだ』というメッセージの形で、米国が事実上、核兵器による報復も辞さないことは、北朝鮮には伝えられている。彼らは当然、それを理解しているはずだ」

 実際に核兵器を軍事作戦の中で使うことよりも、抑止力としての役割を重視する位置づけだ。

 ライス国務長官も、北朝鮮による核実験の可能性が取りざたされた5月、公の発言で「米国はアジア太平洋地域であらゆる種類の抑止能力を維持している」と強調、北朝鮮を強く牽制(けんせい)した。

 だが、ブッシュ政権は、北朝鮮と直面する際の「核」の使い道に関して、過去の抑止中心の流れにあてはまらない動きをみせている。

 具体的には、「地中貫通型核兵器」の研究だ。北朝鮮の核兵器やその指揮命令系統をめぐる重要施設の多くが硬い岩盤の地下深くにあると推察されることをふまえ、米国防総省は地中貫通弾「バンカーバスター」に核弾頭を積み、地下施設を破壊する切り札にする道を模索している。

  ■   ■

 「50万人以上が即死、約200万人の負傷者が生じる」――米国のNGO「社会責任を求める医師団(PSR)」は今年5月、寧辺への地下貫通型核兵器による攻撃が及ぼす被害を検討した。

 小型核ではなく、現実的にみて地下300メートルより深い施設を破壊可能な条件として、既存の地中貫通型B83弾に1・2メガトンの核弾頭を積んだと仮定した。国防総省が開発したシミュレーションソフトを使って、晴天時を想定、データベースに入っている風向風量に従い、「死の灰」の拡散パターンを計算した。

 攻撃の48時間後、日本の一部を含む広い地域で、500万人以上が1時間あたり1レム以上の放射線を浴びるという結果が出た。PSRによると、そのレベルで4日間被曝した人は、健康に長期的な影響が出る可能性がある。大量の避難民など社会的影響も無視できないという。

◆韓国の基地にステルス15機

 在韓米軍司令部は7日、F117ステルス戦闘機=写真、5日、在韓米軍基地で、東亜日報提供=15機が先週、韓国南西部・全羅北道の群山空軍基地に到着したと明らかにした。米ニューメキシコ州の空軍基地から米兵250人とともに派遣され、約4カ月間、駐留する予定。北朝鮮は「ステルス機の南朝鮮(韓国)配備は重大な軍事的威嚇」(労働新聞)などとして強く反発している。(ソウル)

〔朝日新聞〕


■世界の軍事費、1兆ドルを突破・同時テロ後に急増

 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は7日、2005年版年次報告書を発表、04年度の世界の軍事費の合計が前年度より5%増え、1兆ドルを突破したことを明らかにした。イラク戦争、対テロ戦争で米国の軍事費が急増を続けており、全体の47%を占めた。

 報告書によると04年度の世界全体の軍事費は1兆350億ドル(約110兆4000億円)で、世界の国内総生産(GDP)比では2.4%に相当する。インフレ率などを勘案した実質ベースで比較すると、世界の軍事費は冷戦終結後に減少したが、1998年を境に増加に転じ、6年連続で拡大した。特に米同時テロ事件の01年以降に伸びが拡大、過去3年間で19%増えた。(ロンドン=横田一成)

〔日本経済新聞〕


■日米で研究の次世代型迎撃ミサイル、来年度に開発段階

 大野防衛長官は8日、オベリング米ミサイル防衛庁長官と会談し、日米で共同技術研究しているミサイル防衛(MD)の次世代型迎撃ミサイルについて、「共同開発、共同生産に向けて日米の協議を緊密化していきたい」と述べ、来年度に開発段階に移行させる方針を伝えた。

 大野長官は「防護範囲が広がるし、おとり弾などの弾道ミサイルの先進化にも対応できる」と述べ、開発を進める必要性を強調した。これに対し、オベリング長官は「共同研究の成果が上がってきているので、検討を加速化していきたい」と同意した。

 会談に先立ち、2006年度末からの日本でのMDシステム配備に向け、運用や能力向上を協議する日米局長級の「上級運営委員会」の初会合が、飯原一樹防衛局長やオベリング長官が出席して防衛庁で開かれた。MD能力の共同分析作業を行うため、情報共有を進めることで合意した。

〔読売新聞〕


■マイクロチップ:
ペットに埋め込み、30年以上使用OK!?

 6月1日施行の特定外来生物被害防止法(外来生物法)や、開会中の通常国会において超党派で成立を目指す動物愛護管理法の改正案では、一部の動物の体内に「マイクロチップ」を埋め込み、個体を識別することが義務付けられる。欧米では犬や猫といったペットにも普及しているマイクロチップとは、どのようなものなのか。【江口一】

 ◇読み取り機で個体識別

 マイクロチップは、直径約2ミリ、長さ約11〜13ミリのカプセルで、透明なガラスの中にコイル、コンデンサー、ICチップが組み込まれている。チップには規格に沿った個体識別番号(IDナンバー)が記録されている。専用の読み取り機(リーダー)をかざして番号を読み取り、日本獣医師会などで構成するAIPO(動物ID普及推進協議会)に照会すると、登録していた飼い主などの情報が分かる仕組みだ。

 情報の読み取りは、RFID(電波方式認識)という技術を使う。ペットにリーダーを近づけて操作すると微弱な電波が発信され、アンテナ役のコイル部分に磁界が発生して電流が生じ、ICチップの情報が読み出される。この技術は流通の製品管理、JR東日本のIC乗車カード・Suica(スイカ)などにも応用されている。

 輸入元の一つ、富士平工業(東京都文京区)の麻生博・研究開発センター長は「マイクロチップは電池を必要とせず、小型化して長期間、ペットに埋め込むことが可能だ」と話す。地球上での位置が瞬時に分かるGPS(全地球測位システム)の機能と間違われやすいが、電池を持たないマイクロチップは単独では電波を発信せず、リーダーで読み取って初めて識別機能を発揮する。

 マイクロチップは特殊なインジェクター(注射器)で、ペットの皮膚下に注入する。動物の生体に影響のない生物学的適合ガラスが用いられており、原理的には30年以上の使用が可能という。

 大日本製薬によると、動物用のマイクロチップは1989年ごろに英国で使用が始まった。迷子の際の身元確認などに有効として、現在では欧米やカナダ、オーストラリアなどで450万匹以上に使われているという。

 日本では阪神大震災(95年)や北海道の有珠山噴火(2000年)など災害のたびに、飼い主と離れたペットの保護が課題となり、マイクロチップの活用が検討されてきた。AIPOの普及事業は02年に始まり、装着した動物は3月現在で計6350匹、主な実施地域も東京都、静岡県、福岡県にとどまる。

 昨年11月から施行された狂犬病予防法に基づく犬などの輸入検疫制度改正でマイクロチップ装着のない犬や猫などの輸入検疫が強化されている。動物愛護管理法改正案では、ペットの犬や猫などへの埋め込み義務は見送られたが、日本獣医師会は「わが国でも徐々にマイクロチップの必要性、重要性が認識され、普及が期待できる状況になってきた」と話している。

〔毎日新聞〕