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2005.01.27 ■外国籍拒否は合憲 都管理職試験訴訟で最高裁大法廷
 原告が逆転敗訴


 日本国籍がないことを理由に東京都が管理職試験の受験を拒否したことが憲法の保障した法の下の平等に違反するかどうかが争われた裁判の上告審で、最高裁大法廷(裁判長・町田顕長官)は26日、「重要な決定権を持つ管理職への外国人の就任は日本の法体系の下で想定されておらず、憲法に反しない」との初判断を示した。その上で、都に40万円の支払いを命じた二審判決を破棄し、原告の請求を退ける逆転判決を言い渡した。原告側の敗訴が確定した。

●行政の裁量、幅広く認定

 原告は、都の保健師で在日韓国人2世の女性、鄭香均(チョン・ヒャンギュン)さん(54)。都に対して慰謝料の支払いなどを求めていた。

 多数意見は13人の裁判官による。これに対し、2人の裁判官がそれぞれ、「外国籍の職員から管理職への受験機会を一律に奪うのは違憲だ」と反対意見を表明した。

 外国籍の人が地方自治体の公務員になれるかどうかについて法律には規定がなく、公務就任の範囲をどこまで認めるかが争点となった。

 多数意見はまず、「職員として採用した外国人を国籍を理由として勤務条件で差別をしてはならないが、合理的な理由があれば日本人と異なる扱いをしても憲法には違反しない」と述べた。

 今回の受験拒否のケースが合理的かどうかを判断するうえで多数意見は、地方公務員の中でも住民の権利義務を決めたり、重要な政策に関する決定をしたりするような仕事をする幹部職員を「公権力行使等地方公務員」と分類。これについて「国民主権の原理から、外国人の就任は想定されていない」という初めての判断を示した。

 そのうえで、こうした幹部職員になるために必要な経験を積ませることを目的とした管理職の任用制度を自治体が採用している場合、外国籍公務員を登用しないようにしたとしても合理的な区別であり、憲法が保障した法の下の平等には違反しない、と結論づけた。

     ◇            ◇

◆訴訟の経緯

 原告の鄭さんは88年に採用され、94年に課長級以上の昇進資格を得るための管理職選考試験に申し込んだ。しかし、日本国籍が必要として拒まれたため、提訴。96年の東京地裁判決は「憲法は、外国人が国の統治にかかわる公務員に就任することを保障しておらず、制限は適法」として請求を退けた。

 これに対し、二審・東京高裁は97年、「外国人の任用が許される管理職と許されない管理職とを区別して考える必要があり、都の対応は一律に道を閉ざすもので違憲」と判断。一審を覆して40万円の支払いを命じた。

〔朝日新聞〕


■外国籍管理職――時代が分からぬ最高裁

 東京都内の保健所で働く在日韓国人の女性が「課長になりたい」と思い立つ。都は昇進試験を受けさせない。管理職は日本人に限る、というのだ。そんな都の冷淡な措置を全面的に追認する判決が最高裁で言い渡された。

 「管理職は公権力の行使に加わる。日本の法体系は、外国人が公権力を行使する公務員に就くことを想定していない」。都の要職はそもそも日本人限定のポストだというのが多数意見だった。

 企業や自治体が採用や昇進で国籍による差別を減らそうと知恵を寄せ合う時代に、なんとも後ろ向きな判決である。

 訴えていた鄭香均(チョン・ヒャンギュン)さんは、韓国人を父に、日本人を母に持つ。88年、都に保健師として採用された。

 94年春、自分なりの地域の保健プランを作りたい、と管理職試験の願書を出したが、都に拒絶される。半年悩んだ末に提訴した。一審は全面敗訴、二審で逆転勝訴した。最高裁で管理職への道を閉ざされた以上、この先はずっと係長のままでいなくてはならない。

 国籍による就職差別をなくせという声は主に関西の在日韓国・朝鮮人から起こった。企業が門戸を広げるなか、川崎市が消防職員を除いて採用時の国籍制限を撤廃した。札幌、名古屋、京都、福岡などの大都市がこれに続いた。東京を含め10以上の都府県も部分的に採用時の国籍条項をなくしている。

 この流れに弾みをつけたのが鄭さんの訴訟だった。とりわけ「管理職への受験拒否は違憲」と言い切った97年の二審判決が行政に与えた影響は大きかった。

 最高裁がその二審判決をくつがえしたことで地方自治体が萎縮(いしゅく)し、門戸開放の流れが滞ることが心配だ。

 そもそも「日本国籍を持たない公務員は管理職になれない」と定めた法律はない。重大な施策に携わる公務員に国籍が必要なのは「当然の法理」とした半世紀前の政府見解だけだ。それと大差のない最高裁の判決はいかにも古めかしい。

 そんなに働きたいのなら日本の国籍を取ればいいじゃないか。そう思う人もいるだろう。しかし、過去の日本とのかかわり、先祖や親兄弟、故国に寄せる思いから、日本国籍を取る気になれないという人も少なくない。

 救いは、2人の裁判官が書いた反対意見だ。直接住民に強制する職種や、統治の核心にある職種でないのなら、外国籍の職員を管理職に登用してもよい、と述べた。こちらの方が多数意見よりはるかに柔軟だろう。

 津々浦々に外国人が暮らす時代だ。鄭さんは日本語を母語とし、知識も経験もある。地域社会で住民サービスに打ち込む意欲も強い。そんな人材を活用しないのは社会全体の損失ではないか。

 最高裁の判決は、自治体が各地で積み上げてきた門戸開放の努力を違憲といったわけでは決してない。

 外国人が公務員として働ける場を広げる。その流れを変えてはいけない。

〔朝日新聞〕


2005.01.16


■《さらば浪費社会:1》地球が2個あっても足りなくなる
 環境と資源迫る危機 「効率改善、10倍必要」

 成長至上主義と大量消費社会は、地球の資源と環境の両面から見直しを迫られている。持続可能な未来社会を私たち自身が選ぶ必要がある。

 南極・昭和基地――。厳寒期には零下40度近くの銀世界になるこの地も、夏の今はほとんど雪が消え、赤茶色の砂や岩に覆われている。

●棚氷崩壊続く

 佐々木正史隊員は月に2回、大気調査用の道具が入った黒いスーツケースを抱えて海岸に向かう。釣りざおのような棒で5メートルの高さにチューブを掲げ、吸気ポンプで約1分間大気を円筒フラスコに採取する。

 世界各地で異常気象や環境変化が頻発している。石油などの化石燃料を燃やすと出る二酸化炭素やメタンとの関連が指摘され、研究が進んでいる。その濃度を大規模に調査しているのが米国の海洋大気局だ。世界で56カ所、南極では昭和基地と米英の3基地が協力しており、採取した大気は日本に持ち帰ったあと、米国に送る。

 昭和基地では80年代半ばから温室効果ガスを測り始めた。地上での24時間連続測定のほか、高度約30キロまで大型気球を上げたり、航空機を使ったりして採取している。濃度は季節的な増減はあるものの年々、右肩上がりに増え続けている。

 「気候学者のジャックが南極海に張り出した棚氷の上で観測をしていると、すさまじい轟音(ごうおん)とともに氷がひび割れた」――。温暖化による異常気象が地球を襲う米映画「デイ・アフター・トゥモロー」の冒頭シーンだ。

 雪氷を研究する南極観測隊の東久美子隊員は、映画をみて心配になった日本の子どもからテレビ会議教室で「いったいどうなるのでしょうか」と聞かれ、気になって基地内でDVDをみた。「いくらなんでも、あんなにいっぺんには」。東さんは仲間と笑い合った。

 ただ、南極では実際にここ数年、大規模な棚氷の崩壊が衛星写真でとらえられている。02年には1万2千年前からあったとされるラルセン棚氷が35日間で3250平方キロ崩れてなくなった。98〜02年に全体の4割にあたる5700平方キロが崩壊したという。03年にも別の棚氷から巨大な氷山が分離した。東さんも「温暖化の影響ではないか。それが人間の活動によるものとは断定できませんが……」と話す。

 多くの研究者から温暖化の主因とみなされる石油の消費は、今後も増え続けるのが確実だ。20世紀は「石油の世紀」と形容されるほど、経済成長と石油消費は対となって伸び続けてきた。さらに、東西冷戦の終結とその後に訪れたロシアや中国の市場化は、世界経済を拡大し、石油消費の膨張をもたらしている。

●真夏日120日に

 もし今後も世界が「成長重視」の政策のもとで石油の大量消費を続けたらどうなるのか。

 東大気候システム研究センターと国立環境研究所などの合同チームは、世界最高速級のスーパーコンピューター「地球シミュレータ」をつかって21世紀末を予測した。世界が年3%の高成長を2100年まで続け、二酸化炭素濃度が現状のほぼ2倍になれば、世界の平均気温は4度上昇する。そのとき、日本では最高気温が30度を超す真夏日が年に約120日になり、夏の気温は亜熱帯に近づくという。

 「猛暑といわれる年でも平均気温との差は1度程度。それを大きく上回る上昇だ」と環境研の野沢徹主任研究員は説明する。

 国際エネルギー機関(IEA)は昨秋、現状の需要拡大を放置すれば、四半世紀後にはエネルギー需要と二酸化炭素の排出量は現在の1.6倍に膨らむとの見通しを発表した。ただし、先進国が風力などの再生可能エネルギーや省エネルギー技術を導入し、途上国がガソリン消費が比較的少ない低燃費車への移行を進めれば1.4倍程度に抑えられるという。「それでも長期的には不十分だ」とクロード・マンディル事務局長は警告する。

●破局が現実味

 世界はいま1秒間に、石油や石炭などの化石燃料を252トン燃やし、762トンの二酸化炭素を吐き出している。そして71グラムの金を得るために130トンの岩石を掘りおこしている。

 そんな「1秒の世界」を本にまとめた東大生産技術研究所の山本良一教授は「経済を成長させながら環境への負荷を減らす。92年にリオデジャネイロで開かれた地球サミット以来の宿題に、世界はいまだに明確な解決策をださないまま、膨大な資源の浪費を続けている」と指摘する。

 まだ豊かさを手にしていない途上国は、成長する権利を主張している。いまの世界は20%の豊かな人々が、80%の自然資源を消費する構図だからだ。だが、「世界中の人々が先進国並みの暮らしをするには、地球が2個あっても足りない」とフランスにあるファクター10研究所のフリードリヒ・シュミットブレーク所長は話す。「途上国の成長と、先進国の生活水準の向上を両立するには、先進国が資源効率性を現在の10倍以上にあげる必要がある」

 世界各国の科学者・経済学者らのグループ「ローマ・クラブ」が72年にまとめた報告書「成長の限界」は当時、「資源危機」と「環境危機」という二つの破局シナリオを示し、警鐘を鳴らした。今のままでは資源はいずれ足りなくなる。資源が十分にあれば需要にこたえられるが、今度は環境汚染が自然の浄化能力を上回るまで進む――。いずれにしても世界システムは行き詰まる、という悲観的な筋書きである。

 それから30年余り。私たちは破局シナリオへの対策に本気では取り組んでこなかった。その間、巨大市場・中国の出現が資源エネルギー需要のけた外れの膨張をもたらし、「石油ピーク(生産頭打ち)説」は当時より一層、現実味を帯びている。地球温暖化も確実に進む。

 30年前にはSFの世界の小道具だった携帯電話やインターネット、ロボットという技術が今や、私たちの日常にある。資源と環境を巡る破局シナリオも、SFの話ではなくなり、いま目の前にある危機として迫る。「解」探しに本気で取り組まなければいけないときだ。

 (田中郁也、南極支局・中山由美) 

〔朝日新聞〕