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2006.05.03 |
全米各地で100万人を超すヒスパニック(中南米系)の移民らが街頭に繰り出した1日の全米デモは、ロサンゼルスやシカゴなどヒスパニックが多く暮らす大都市で、不法移民の「合法化」を望む声が一層高まっていることを示した。ただ、デモが職場放棄などの「ボイコット運動」という実力行使に発展したことで、米議会が審議している移民関連法案の行方は逆に不透明さを増しつつある。(ロサンゼルス=萩一晶、ワシントン=小村田義之) ●市民権へ世論も味方 ロサンゼルスの目抜き通り。デモの渦のなかで、日雇い労働者のペドロ・ラミレスさん(30)は妻と娘2人を連れて歩いていた。「こんな大きなデモがあったからには、9割方は合法化への道が開けると思う」 グアテマラ出身。越境してロサンゼルスに来たのは8年前だ。道路脇に立ち、仕事を待つ暮らしで時給は9ドル前後。「この国で私たちは幸せになった。ずっとこの国で暮らしたい」と話す。 3月にデモが広がった当初は、下院を昨年末に通過した不法移民取締法案への危機感がデモの列に漂っていた。これまでは民事上の違反だった不法滞在が刑法上の重罪となり、助けた家族も罪に問われる厳罰主義の強硬的な案だ。「我々は犯罪者ではない」という怒りの声があがった。 行動に駆り立てられたのは、下院の法案が「家族のきずな」を直撃するためだ。ビザのない親と市民権を持つ子どもなど、「合法」と「不法」の移民がともに暮らし、支え合っているのがヒスパニック社会だ。デモには、すでに市民権を持つヒスパニックも大勢加わっている。 全米に広がるデモの波に押されるかのように、上院では、一定の条件を満たす不法移民にゲストワーカーの資格を認め、将来の市民権獲得へ道を開く法案が検討されている。ブッシュ大統領も、こうした動きを後押しする。 ロサンゼルス・タイムズ紙の世論調査では、ビザのない移民に無犯歴証明などの条件下で、市民権獲得への道を開くことに全米では「賛成」が66%、「反対」が18%、ヒスパニックの多いカリフォルニアでは「賛成」が7割を超す。 カリフォルニア大学リバーサイド校のアルマンド・ナバロ教授は「(ヒスパニック社会が)『眠れる巨人』だった時代は終わった。自信と力を見せつつある」と話す。 ●強硬派議員らを刺激も しかし、移民関連法案の先行きは、今回のデモを経て、さらに見通せなくなってきた。デモと同時に展開された職場放棄などのボイコット運動が、下院共和党を中心とする移民排除の強硬派を逆に刺激したからだ。 「不法移民のいない日は、米国の納税者にとっては恩恵だ」 移民が急増しているコロラド州選出の共和党、タンクレド下院議員は「移民のいない日」と名付けられた1日のボイコット運動を皮肉った。 保守的な下院議員らは、秋の中間選挙を控えて、あえてボイコット運動に反発し、不法移民に抵抗感のある白人保守層にアピールしようとしている。ヒスパニック票の取り込みを図る上院共和党の寛容派とのギャップは広がったままだ。 共和党重鎮のロット上院議員はボイコット運動前日のCNNの番組で「大規模な抗議行動は非生産的だ。責任感を持って解決策を探っている議員の努力を妨げることになる」と、寛容派の立場からボイコットの動きを批判した。 運動が全米で報道され、急速に政治問題化していることから、ブッシュ政権としては早めに寛容な上院案を通過させたい考えだ。だが、両院協議会で下院案との調整が必要になるため、年内成立に向けた道筋はついていない。 〔朝日新聞〕 |