DAILY SHORT COLUMNS - Daily Life -

 
2003.03.31
四十にして立てるか・・・Vol.29

チャイムをコールすると静かにゆっくりとドアーが開いて、そこには彼女が私には懐かしさすら感じさせる優しい微笑みを湛えて立っていました。

高鳴っていた私の胸の鼓動がふっと収まっていき、そしてそのまま彼女が持つたおかな安らぎのベールに包まれていく気がしました。

それから私達は、無言のまま向かい合わせのソファーに腰をおろして、ただお互いを見つめ合ったままでいたのですが、しばらくすると彼女がゆっくりと立ち上がって近付いてくると、私の手をとってベッドへいざなったのです。

私はまったくそうした事態を予期していなかったので、やはり動揺は隠せませんでしたが、ベッドに仰向けにさせた私に彼女が覆いかぶさって、その柔らかな優しく微笑む唇をそっと重ねてきた時には、もはや私は思考を放棄させられてしまっていました。

それからはたかまりとまどろみとけだるさの永々とした繰り返しでしたが、不思議と私達は情欲的に交わるわけではなく、一緒に眠りにつくかのようにゆったりと漂いながらただお互いの存在を深く感じつつ、溶け合って一つになっていくかのような安らかさの中で、まるで流れが止まってしまったかのような静かな時を過ごしました。

ふと気付いた時には、もう日が暮れて窓の外は暗くなってしまっていました。彼女がそっと私の腕の中から抜け出してバスルームに消えたことで、私は目覚めるかのように現実に戻ってきました。静かな雨音のような彼女の使うシャワーの音を遠くに聞きながら、思いもかけなかったこの展開をどのように認識すればよいのかとあれこれ思いを巡らせましたが、そんなどれもこれもが不自然で的外れにしか感じられませんでした。(続く)


2003.03.28

四十にして立てるか・・・Vol.28

翌週末、はやる気持ちを迎えきれずに帝国ホテルに私が着いたのは、まだ14:00を少し回ったばかりで、約束の時間まではまだ小一時間ほどありました。

ロビーラウンジが週末のためかかなり混んでいたこともあって、私はアシスタントマネージャーデスクから少し離れたエントランス近くの柱にもたれながら、奥に続くショッピングアーケードからエントランスを行き交う様々な国の大勢の人達をぼんやりと眺めつつ、彼女と共有した様々な場面を想い起こしながら感傷的な気分に浸っているうちにすぐに時間は過ぎていきました。

私の脇を通りすぎるベルキャプテンの女性の右手にふと目をとめると、彼女が手にしていたそれはあの印象的な淡いブルーの封筒でした。背の高い外国人の彼女は、颯爽と真っ直にアシスタントマネージャーズデスクに向かい、黒眼鏡で白髪混じりの初老のマネージャーに一言二言告げるとその封筒を手渡していきました。

すぐに受け取りにいきたい衝動に駆られましたが、約束の時間にはまだ少し時間がありましたから、そのまま落ち着かない気持ちのまま待ち続け、約束の15:00を数分過ぎたところで私はおもむろにアシスタントマネージャーズデスクに向かいました。

高鳴る気持ちを抑えつつ封を切ると、やはりあの濃いブルーのインクでたった一行、「1007号室でお待ちしています」と書かれていたのです。(続く)


2003.03.25

たかがパソコン、されどパソコンVol.29(business & life共通)

このコラムの続きを書くのにしばらくインターバルがあった間に、最近新たにPDA用の携帯キーボードを入手しました。以前言及した折り畳み式のPDA用キーボードメーカーが新たに発売したもので、入力時にPDA本体の半分弱の大きさをキーボードを本体下部に接続して使用するのですが、これが実に具合いがよいのです。

折り畳み式キーボードは三つ折りの状態から開くとフルサイズになってしまいますから、やはり座って広げるスペースが必要になってしまいます。しかし、今回新たに入手したキーボードはまさに立ったままでも、つまり入力するどんな場面においてもこれまでに比較して格段に操作性は向上しました。

キーボード付きのPDAへの交換、あるいはPDAとB5ノートPC双方の代替としてパームトップPCの導入などを思案していたのですが、少なくとも当面の間はこのPDAキーボードの導入オンリーで事足りてしまいそうです。

かえってキーボードタイプのPDAに交換するよりも、文字入力の際にだけキーボードをつなげられて普段はコンパクトな本体だけで携行できる現状の方が、私の普段の用途には適しているようです。

唯一の難点は、やはりローマ字入力オンリーのいう点なのですが、ここしばらくの間にローマ字入力にもすっかりと慣れてしまった気がします。(続く)


2003.03.24

たかがパソコン、されどパソコンVol.28(business & life共通)

ある人から見れば、私は、全国ひいては世界中を旅しながら日々遊び暮らしていると映るようですし、逆にまたある人には、四六時中起きている間中パソコンと睨めっこしているように映るようです。何せ移動中の車上ではもちろんのこと、混んだ電車内で立ったままでもPDA に向かい、一息入れようとする喫茶店でもすかさずパソコンに向かう・・・、そんな様子を見ればそんなふうに思われても仕方のないところです。

久しぶりに私は、このコラムの続きを例によって移動中の電車内で書いているのですが、今しがたもたまたま隣に座っていた自称従業員20名の中小企業経営者という熟年の男性から、しげしげと私の手元を覗き込みながら、「お兄ちゃん、こんなとこでも仕事せんとあかんのか?たいへんやなあ」などと声をかけられたので、私は、「いえいえ、こんなところでくらいしか仕事をしないんです。会社には行きませんし、もちろん家でも仕事はしませんから、皆さんが働いていらっしゃる時には遊んでいるんですよ」と答えたら、彼は意味が解らず首をひねっていました。

それからその男性としばらく世間話をしていたのですが、「もうワシみたいな年寄りにはとても理解できんな・・・」とつぶやきながら、彼は後ろ手を挙げて途中の駅で下車していきました。(続く)


2003.03.21

今日の新聞から

イラク関連ニュースでいっぱいの今日の新聞から、小さいながらも目に付いた記事を二つ引用します。


■宇多田ヒカルさんが「正しい戦争なんて無い」

 人気ミュージシャンの宇多田ヒカルさん(20)が20日、自らの公式ホームページで「正しい戦争なんて無い」と現在の心境を明らかにした。

 宇多田さんは、今回の戦争を正義と考える人たちがいることが信じられないとし、「賛成する人も、無関心な人も、同罪」などと記した。今年2月半ば以来、久々に思いを書き込んだが、「こんなのでごめん。残念です」と締めくくっている。

〔朝日新聞〕

・・・まさにそのとおり、実にシンプルに事の本質をついていると思います。


■128億光年、最も遠い銀河発見 すばる望遠鏡

 国立天文台は20日、ハワイに設置している望遠鏡すばるが、これまでで最も遠い銀河を発見したと発表した。地球からの距離は128億2760万光年。米国の望遠鏡が持っていた記録を300万光年上回った。

 かみのけ座の中の満月ほどの広さの領域を集中観測。128億光年を超える銀河2つを発見したうちの一つ。大きさは、地球がある銀河の3分の1程度とみられる。

 遠方からの光が地球に届くには時間がかかるので、この銀河は、現在137億歳の宇宙が、まだ9億歳だったころの姿を見せていることになる。

 「すばる深宇宙計画」の成果で、代表者の小平桂一・総合研究大学院大学長は「宇宙の果てまで見通して私たちの起源を探るのに、すばるが大きく貢献できることがはっきりした」と話した。

〔朝日新聞〕

・・・一秒間に地球を7周半してしまう光のスピードで128億2760万年かかる距離・・・、ただため息・・・。


2003.03.18

四十にして立てるか・・・Vol.27

私が彼女に最後に会ったのは、私達が二十一歳の春のことでした。

私は東京の大学彼女は地元の短大に進学して以来その日まで、私達は一度も会ったことがなかったのです。

少なくとも私の側では彼女のことを想わない日は一日たりともありませんでしたから、時々私は彼女に宛てて一方的に長い手紙を書いたり、クリスマスカードや年賀状を送ったりしていました。例によって彼女からは何らの音沙汰もありませんでしたが、私もそれで満足してしまってもいたのです。

彼女は私にとっては特別な存在でしたし、東京ではごく日常的な女友達や中には深い関係になる女性もありましたが、私の気持ちの上での彼女の存在が希薄になるわけではなく、次第に何か心の奥底に常に静かに横たわるような平坦なそして重厚な存在になりつつありました。

そんなある日アルバイト先から帰宅すると、ドアーポストから夕刊と一緒に床に落ちてしまっていた彼女からの手紙を見つけたのです。

私が彼女から貰った最初で最後のその手紙は、淡いブルーの無地の揃いの封筒と便箋で、大きめの便箋の中央に懐かしい彼女の几帳面な性格が伝わってくる楷書体の文字が整然と並んでいました。
「来週末に上京します。お会いできれば嬉しく思います。
土曜の午後三時以降に、帝国ホテルのロビーアシスタントマネージャーデスクから伝言をお受け取りください」
たったそれだけの文面でした。濃いブルーのインクで書かれた文字と罫線もない淡いブルーの便箋とのコントラストがとても美しく、たおやかな胸に抱かれて彼女の存在を強く感じたあの日の、私を優しく見つめる瞳の深い静けさと安らかな広がりに包まれているような気がしました。(続く)


2003.03.17

四十にして立てるか・・・Vol.26

来るものは拒まず、去るものは追わず、流れに逆らうでもなく、それでも流されてしまうわけでもなく、それからの私は大げさにいえば運命に導かれながらも、ただいつも自らが許容し納得することができる私自身であり続けることだけに留意しつつ、四十歳を迎えるまでの日々を過ごしてきました。

自らの印象としては、淡々と日々を過ごしてきたつもりでいるのですが、私自身が望んだわけではなくとも、流れに逆らわずでも逃げずにいようとしているだけで、様々な事件の渦中に身を置いてしまうこととなり、たまたまそうした結果として身近な第三者の目には波瀾万丈とも映る日々を過ごさざるをえなくなったように思います。

それにしても、既得権者層や組織や社会に隷属せず、自らの尊厳を護り続ける、たったそれだけのことが現状の私達を取り巻く環境のもとでは実に困難ですし、私もこれまでの日々を振り返れば、そんな基本的人権の基準の私が私であり続けるためのささやかなプライドを護るために支払った代償は、とても大きなものになりました。これだけ自尊心が根幹から欠落してしまった不公平かつ不公正な社会とそれに飼い慣らされてしまった多くの人々の在り様の必然性の一端がここにも伺えます。

私のこれまでのささやかなプライドを護る戦いの日々については、また別のショートコラムシリーズにて言及していくこととして、ここでは戦わずして自尊心を護ることはできず、自らの生を救うことなどできはしないということを強調しておきたいのです。(続く)


2003.03.14

四十にして立てるか・・・Vol.25

私自身が、第三者の価値基準や自らへの評価などといった客体的価値基準に因われずに、自らの価値観や考えまたその時々の感情に忠実に順ずるような絶対的価値基準に徹するようになってくると、自ずと同様にそれぞれ各人の絶対的価値基準に基づいて生活している人達を見つけることができるようになっていきました。

それまでの知り合いの中にも、少なからずそのような人物はひっそりと隠れていましたし、それ以降に出会い関わる人々の中から確実に絶対的価値基準生活者を選り分けることができました。

それに加えて実際には一度も出会ったこともないような相手や故人達に対しても、またさらには物語上などの架空の人物達にすらも、現実世界上と変わらないような親近感を抱きつつ、メディアを通して知り及ぶ様々な彼らの言動や生き様からも多大な影響を受けてきたものです。

たかが生活・・・、されど生活・・・であって、この世知辛い世の中においては、多くの人々は自らを擁護するだけの発想からなかなか脱却することができず、第三者や自らを取り巻く環境に対して損得勘定以外の尺度をなかなか持ち得ないのです。権力に屈服し、社会や体制に迎合し、主体性と積極性を世界の先進国中で最も持ち得ない民族、悲しきかなそれが現状の私達日本人の在り様なのです。(続く)


2003.03.05

つかの間の安らぎVol.9(business & life共通)

皮肉ですがこんな膨大な投資も、IT関連産業を潤わせていみじくも景気活性化へのささやかな貢献くらいの意義しか見出せませんし、何はともあれ私にはただの無駄としか思えないのです。

またしばらく間が空いてしまっていますが、同時進行中のコラムの一つ”たかがパソコン、されどパソコン”のシリーズ中でも触れましたが、かつて私がほんの数名の小さなデザイン事務所としての約2500万円ものIT関連投資により手に入れた環境をはるかに凌ぐ快適なコンピューティング環境を、昨今ではほんの数十万円程度の投資で得ることができてしまいますし、当時とて今くらいの知識や経験があったとすれば、投資額は何分の一かに抑えることができたと思います。

メーカーやベンダーの思惑に引き摺られることなく自らの需要と様々な供給の接点を的確に判断していく目を私達ユーザーが持ちさえすれば、コンピューティングの業界も淘汰され様変わりしてユーザー本位になり、はるかにクオリティーとユーザビリティーの高いハードウェアやソフトウェアが開発されていくことと思います。

もちろんすべてがすべてというわけではなく、中にはクライアントの満足をしっかりと考えている企業も少なからず存在はしていますが、悲しきかなやはり多くの現存IT関連企業は、未だまるで素人ごかしの詐欺に近いようなビジネスに終始していると感じてしまうのは私だけなのでしょうか。

一般的なウェブサイトに数百万円はざらに、一部では一千万円を超えるような制作費を要求するようなウェブサイト制作業者もありましたが、さすがに最近では淘汰されてきつつあります。それでもまだまだ私なりの適正価格基準から判断すれば、信じられないような高額な価格帯で多くのIT関連企業が当たり前のように営業していて驚くやら呆れるやらなのですが、何と言ってもその原因はそんな企業にも依頼をしてしまうユーザーがそれだけ存在するということにあるのです。(続く)


2003.03.03

つかの間の安らぎVol.8(business & life共通)

それにしても、パソコンのことが解るようになればなるほど、ハードウェアもソフトウェアもメーカーやベンダーの思惑で動いていて、良くても消費者の都合など二の次三の次、ともすれば忘れ去られてしまっていることがよく理解できるようになります。

日進月歩で進歩しているといえば聞こえはよいのですが、日々市場に出回り続ける新しいハードウェアやソフトウェアの一体どれほどのものが、本当に消費者の利便性を高めていることでしょうか。

オペレーションシステムもアプリケーションも次々とアップグレードされ、肥大化複雑化していきます。厳密に考えれば、その時点で採用しているオペレーションシステムに対応したアプリケーションは、オペレーションシステムをアップグレードする際にはやはりアップグレードが必要になります。当然アプリケーションはオペレーションシステムに後追いで対応していくのですから、それだけシステム環境の移行には相応の時間と費用さらに手間を要することになります。

全体的に見れば、これだけ頻繁にオペレーションシステムがバージョンアップされるとなれば、その度に律儀に環境移行をしているようなユーザーはそれほど多くはないと思います。相当種類のアプリケーションを使用している個人ユーザーの費用負担は相当に大きくなりますし、法人と言えども大企業になればなるほどネットワークの端末台数は多くなりますから、必要予算もそれに比例して大きくなっていきます。ましてや、特別にカスタマイズしたグループウェアや業務推進に特化してプログラミングしたようなソフトウェアを導入しているようなケースでは、システム環境移行予算は、一般人を絶句させるに充分なだけの金額に及んでしまいます。(続く)


2003.03.01


つかの間の安らぎVol.7(business & life共通)

光陰矢の如し、月日が流れるのはいつも早いものですが、もう今日で今年も3月を迎えてしまいました。これから次第に暖かい春を迎えていくのでしょう。まだ寒い日が続いていて、あまりピンときませんが・・・。

それにしても、2月はもともと短い月ですが、今回のシステムリカバリー騒動であっという間に過ぎ去ってしまいました。日常の雑務もすっかりと溜まってしまっていますし、本来予定していた案件もずるずると先延ばしになってしまっています。まあ、内々の案件がちょうど重なっていましたし、クライアントにはそれほど迷惑をかけずに済んでいることが不幸中の幸いでした。

結局廻り廻って元の木阿弥状態で、時々起動時にハングアップしてしまう症状は修復できていませんし、まだ相当数の分散したサーバーへのアクセス設定や、毎日使用するわけではない各種アプリケーションのインストールと設定やら、消失してしまいOperaには復旧できたもののここ数ヶ月分のメールの整理やらが残っており、それらの作業と蓄積した雑務の処理を思うと気が重くなってしまいます。

今回の騒動も含めてここ数ヶ月の間に、MacintoshもWindowsもやはり日々使用するパソコンは限定しておかないと不便で仕方がないということを実感する反面、何か問題が生じてしまうような場合に備えて、やはり予備のPCを用意しておかないと不便どころか仕事に支障をきたしてしまいますし、ジレンマに陥ってしまいます。(続く)