DAILY SHORT COLUMNS - Daily Life -

 
2006.10.31

■日本「人口減社会」に、05年初のマイナス・国勢調査確定値

 日本の総人口が2005年に初めて減少に転じたことが確定した。総務省が31日発表した国勢調査の確定値によると、05年10月1日時点の総人口は1億2776万7994人で、前年10月の推計値に比べ約2万2000人減った。06年10月の推計人口も約1万8000人の減少を見込み、日本が「人口減社会」に入ったことが鮮明になった。経済成長を維持するためにも、政府は少子高齢化対策を進める必要がある。

 昨年末の速報値と比べると、総人口は1万1179人多い結果となった。総人口のほか、15歳未満の子ども人口や65歳以上の高齢者人口も確定。子ども人口は1752万1234人で、総人口に占める比率は過去最低の13.7%。2000年に実施した前回国勢調査より0.9ポイント低下した。

[日本経済新聞]


■献血血液のHIV陽性率、今年上半期は過去最高

 献血された血液のエイズウイルス(HIV)検査で、昨年17年ぶりに減少した陽性率が、今年上半期に増加に転じ過去最高となったことが、厚生労働省のまとめでわかった。

 31日に開かれた同省薬事・食品衛生審議会血液事業部会で報告された。同省血液対策課は「感染を知らずに献血した人が増加しているのではないか。医療機関などでの検査体制を充実させる必要がある」としている。

 上半期の献血件数約248万件のうち、HIVが検出されたのは48件(うち女性3件)。10万件当たりの陽性率は1・935で、昨年1年間の1・466を大きく上回った。

[読売新聞]


■在日外国人:155万人 中国人は5年間で37%増

 総務省が31日発表した05年10月の国勢調査の確定値で、日本に住んでいる外国人の人口は155万5505人で、1920年の調査開始以来最多を更新、総人口に占める割合は戦後最高の1.2%となった。これまでの最高は00年の前回調査の131万545人だったが、さらに18.7%増えた。49.9%が東京、大阪、愛知、神奈川、兵庫の5都府県に住む。

 調査対象は、外交官などを除き、日本に3カ月以上居住している外国人。国籍別では(1)韓国・朝鮮46万6637人(2)中国34万6877人(3)ブラジル21万4049人−−の順。前回比で韓国・朝鮮は11.9%減だったが、中国は37.1%増、ブラジルは13.6%増だった。【川上克己】

[読売新聞]


2006.10.29


■地対空ミサイル、米軍が首都圏配備へ

 在日米軍がミサイル防衛(MD)の中核をなす地対空誘導弾パトリオット3ミサイル(PAC3)を首都圏の米軍基地に配備する検討を始めたことが28日、分かった。日本政府への非公式な連絡によると横田基地(東京都)や横須賀基地(神奈川県)が候補地。北朝鮮の7月の弾道ミサイル発射や今月の核実験を踏まえ、MD体制強化を急ぐ方針とみられる。

 具体的な配備日程は判明していないが、早ければ来年にも迎撃体制が稼働する見込みだ。

〔日本経済新聞〕


2006.10.26

■将来の年金額、全員に通知 50歳以上には見込み額

 老後に受け取る公的年金の見込み額や納付記録を、政府が加入者全員に通知する「ねんきん定期便」の概要が固まった。50歳以上の人には最終的な年金見込み額を知らせ、見込み額の算定が難しい50歳未満の若い世代には目安がわかる早見表を同封して将来の年金額をイメージできるように工夫する。いくらもらえるかわかりにくいことが、年金への不信感や保険料の未納につながっている現状を改善し、制度への信頼を取り戻すねらいがある。

 24日、柳沢厚生労働相が原案を報告し安倍首相が了承した。

 ねんきん定期便は、安倍首相が9月末の所信表明演説で「親切で国民にわかりやすい年金制度を確立」するため早期に整備すると明言していた。

 年金の個人情報通知は04年の年金改革で08年4月から実施することが決まっていたが、55歳以上の加入者に対しては実施時期を早め、07年末から通知を始める。

 当初は保険料の納付実績に応じて積み上がるポイントを知らせ、単価をかけると年金額が分かる「ポイント制」を導入する予定だった。しかし柳沢厚労相が「ポイントで通知するとかえって分かりにくい」と指摘。年金額そのものを明記することになった。

 全加入者に毎年1回送付する「定期便」には(1)これまでの加入期間(2)納めた保険料の総額(3)それに基づく年金額――が示される。年金は実際には25年以上加入しないと受けとれないが、それ未満の人にも、それまでに支払った保険料に見合う年金額を示す。

 これに加えて、50歳以上については、将来の収入の見通しを考慮した上で、受給開始年齢に達した時点で受け取る年金の見込み額も明記。50歳未満は、将来の年収の想定が難しいため、年収と納付期間を掛け合わせれば目安となる年金額がわかる早見表を同封する。

 公的年金の加入者約7000万人全員に定期便を送る費用は、年間約110億円にのぼる見込みだ。

 社会保険庁では現在、50歳以上の希望者に年金額を試算・通知しているほか、同庁のホームページ上には50歳未満でも加入期間や平均月給を入力すると大まかな年金額がわかる仕組みがある。政府は、年金に関心がある人だけではなく全加入者に定期便を送ることで、制度への関心を高め、年金の未納減らしにもつなげたい考えだ。

〔朝日新聞〕


2006.10.24

■自分の国どこ? 英国の子供20%、地図で示せず

 英国の子供の5人に1人が、地図上で自国の位置を示せないことが、このほど行われた調査で明らかになった。英国では5歳から14歳が通う公立校で地理が必修科目となっているが、さんざんな結果に関係者は不安感を強めている。

 地元メディアによると、調査は「ナショナル・ジオグラフィック・キッズ」誌が英国での刊行に合わせ、6歳から14歳の1000人以上を対象に実施。米国の位置を示せた子供は6割以下で、86%がイラクの場所が分からず、10人に1人が大陸の名称を1つも答えられなかった。またロンドン在住にもかかわらず、英国の首都がどこか分からない子供も一部いたという。(時事)

〔朝日新聞〕


2006.10.21

■エイズ孤児:2010年に1800万人超える恐れ

 【ヨハネスブルク白戸圭一】サハラ砂漠以南アフリカのエイズで親を亡くした子供(0〜17歳)の総数が2010年に1800万人を超える可能性のあることが19日、西アフリカ・セネガルで開かれていたユニセフ(国連児童基金)の会議で報告された。ロイター通信が伝えた。ユニセフは、孤児の爆発的増加がアフリカの貧困を一層深刻にするだろうと警告している。

 ユニセフによると、サハラ以南アフリカには現在、少なくとも父または母を亡くした子供が、すべての子供の約12%に当たる約4830万人いる。このうち4人に1人に相当する1200万人は、エイズで親を亡くしたとみられている。会議では今後4年間に新たに600万人の「エイズ孤児」が生まれる可能性が報告された。

 国連合同エイズ計画などによると、05年末現在の世界のHIV(エイズウイルス)感染者は約4030万人で、このうち約65%がサハラ以南アフリカに集中している。感染防止には教育水準の引き上げや感染者への投薬の普及が必要とされるが、ユニセフのグルマ中西部アフリカ地域代表はロイター通信に「教育、保健、開発の現状は理想からは夢のように遠い」と述べた。

〔毎日新聞〕


2006.10.18

■同性愛者の「結婚」も市長が祝福 大阪市が活性化戦略

 大阪市民であれば、ゲイやレズビアン同士の「結婚」を、市長が祝福します――大阪市は17日、街の活性化を目指す「創造都市戦略」骨子案を公表し、参考としてこんなプランを披露した。担当者は「議論はあるだろうが、多様性を許容するざっくばらんさが、大阪らしいのではないか」と話している。

 新戦略作成をめぐっては6月、市各局・区から選ばれた中堅職員30人がプロジェクトチームを結成。「交通利便性の向上」「大阪の売り出し」など5テーマを掲げ、15の事業案を考え出した。

 お金をかけない「既存施設の活用」の項目で挙がったのが、結婚祝福式だった。市内に住むカップルを月1回、10組ほど募り、市役所1階ホールで、市長がお祝いカードや握手などで祝福する。

 同性愛者ら国内では法的に結婚できないカップルも対象。行政が多様な人の生き方を積極的に認めることで、「本当に人にやさしいまち大阪」を目指すという。

 ほかの事業案は18日午前10時から、市経営企画室のホームページで確認できる。

〔朝日新聞〕


■レジ袋:削減目指し、1枚5円に 東京・杉並区、スーパーと協定

 東京都杉並区は16日、食品スーパーのサミット(本部・杉並区)とレジ袋有料化の地域自主協定を結んだ。区内の成田東店で来年1月15日から3月末まで1枚5円で試験的に販売し、1日に800〜1000枚の削減を目指す。自治体と業者がレジ袋削減の協定を結ぶのは全国初。

 同区は買い物袋を持参する「マイバッグ」運動を02年から開始。しかし、持参率は05年で35・2%と3年でわずか9ポイントしか伸びなかった。計画では最終の07年に60%を目標にしていたが、頭打ち感が否めず、今年からは調査を打ち切り、打開策として同社に有料化を持ちかけていた。同区は今後、同社に限らず協力店舗を拡大したい考えだ。

 同社は袋の収益金を緑化など地域の環境教育に還元する。高田浩社長は「有料化の理解を広めることが重要」としている。【森禎行】

〔読売新聞〕

 


2006.10.17

■イラク死者「推定65万人」 米など研究グループが統計

 03年3月のイラク戦争開戦から今年6月までの紛争によるイラク人の死者数は、約65万5000人に達する――米国とイラクの公衆衛生学研究グループが11日、人口統計の手法を使った推定値を英有力医学誌ランセット(電子版)に寄稿した論文で発表した。04年にも開戦1年半で10万人という推定を出していたが、05年以降、死亡率はさらに激増しているという。

 この数字は、米英の非政府組織(NGO)「イラク・ボディーカウント」が報道をもとに推計しているイラク人民間死者数の約5万人をはるかに上回っている。ブッシュ米大統領は11日、記者会見で「信頼性のあるリポートだとは思わない」と退けた。イラク駐留米軍のケーシー司令官も同日、国防総省の記者会見で「これまでに目にしたどんな数字をも大幅に上回る。信頼性はおけない」と批判した。

 論文を出したのは、米ジョンズ・ホプキンス大医学部のギルバート・バーンハム教授ら4人。今年5月から7月にかけて、無作為に抽出したイラク国内の47地域で各40世帯、合計約1万2800人を対象に面接調査を実施、家族構成や誕生、死亡の数、その経緯について詳しく調べた。

 その結果を統計処理して推計した死亡率は、年間1000人当たりで、イラク戦争前は5.5人だったのに対し、今年7月の時点では、13.3人だった。イラク全体にあてはめると、戦争がなかった時点よりも65万5000人多い死者が出たという勘定になるという。

 このうち約5万4000人は、紛争の影響を受けた病死や事故死だが、残りの60万人以上は暴力による死者で、銃撃がその中で最大の死因だった。

 米英軍・駐留部隊の空爆などを受けて死亡した人は、06年に入り全体の中の比率は下がっているが、実数は伸びているという。以前からの反米闘争に加え、イラク人同士の宗派間対立による暴力がそれを上回る泥沼を作り出している現状を裏付ける数字となっている。

〔朝日新聞〕


2006.10.10

■「貯蓄なし」世帯、依然22% 単身者では32%

 「預貯金なし」世帯の比率が4年ぶりに減少した。金融広報中央委員会(事務局・日本銀行)が10日発表した「家計の金融資産に関する世論調査」によると、「預貯金がない」と答えた2人以上世帯の比率は22.2%で前年を0.6ポイント下回った。ただ、戦後最長の景気回復局面にもかかわらず、依然として高止まりしていると言えそうだ。

 96年に10%前後だった貯蓄なし世帯比率は00年以降高まり、03年に20%を突破、ここ数年22%前後で推移している。貯蓄なしの単身世帯は前年比8.8ポイント減の32.3%、全体では0.9ポイント減の22.9%だった。

 1世帯当たりの平均貯蓄(金融資産)残高は約1073万円と前年より12万円減ったが、昨年調査と比べて貯蓄増世帯の比率が4.4ポイント増の25.1%になった。貯蓄額別に並べるとちょうど真ん中に来る世帯の貯蓄額は約420万円と昨年より20万円増えた。全体の所得のばらつきが縮んだ格好だ。

 借入金のある世帯は全体の41.8%と前年とほぼ同水準。平均額は536万円と、前年を19万円下回った。

 調査期間は6月23日〜7月10日。対象は全国の1万80世帯で、回収率は34.5%だった。

〔朝日新聞〕


■「日本の金持ちは小粒」 平均資産3億2千万円

 三菱UFJメリルリンチPB証券は10日、100万ドル(約1億2000万円)以上の資産を持つ日本の富裕層の1人当たり平均保有資産は270万ドル(約3億2000万円)との調査報告を発表した。アジア地域の富裕層の平均は320万ドル、世界の富裕層平均は380万ドルで、同証券は「日本はお金持ちの数は多いが小粒」と分析している。

 報告は、米大手証券メリルリンチと調査会社キャップジェミニ社がアジア主要8カ国・地域の富裕層について、世界銀行の国民所得統計などをもとに推計した。

 05年末時点で、居住目的の不動産を除く資産が100万ドル以上ある富裕層はアジア地域で約240万人。このうち日本は最多の約141万人で6割を占めた。

 一方、富裕層1人当たりの平均保有資産では、日本は8カ国・地域の7番目。トップの香港の530万ドルや2位の中国の500万ドルと大きく差がついた。3000万ドル(約36億円)以上の資産を持つ「超富裕層」はアジア地域に約1万5600人いるが、日本はその約3割の約4800人だった。

 同証券によると、日本では団塊の世代が退職金や相続などで富裕層に仲間入りする例が出ており、「小粒なお金持ち」が今後も増えそうだという。

〔朝日新聞〕


■家計の金融資産平均、1・1%減の1073万円

 金融広報中央委員会が10日発表した「家計の金融資産に関する世論調査」(2006年)によると、家計の金融資産の平均保有額は前年比1・1%減の1073万円となり、2年ぶりに減少に転じた。

 金融商品別の比率では、預貯金や郵便貯金が減り、株式や投資信託などリスク資産が増え、貯蓄から投資の流れが加速した形だ。

〔読売新聞〕


■日本の富裕層人口141万人・アジア地域で断トツの首位

 日本の富裕層の人口はアジアの他の国・地域に比べて多いが、1人当たりの保有資産は控えめ――。三菱UFJメリルリンチPB証券が10日発表した調査で、こんな結果が明らかになった。

 調査は米大手証券メリルリンチなどが日本を含むアジアの8カ国・地域を対象に昨年末に実施した。100万米ドル以上(約1億1900万円)の純金融資産を持つ個人を富裕層と定義した。

 日本の富裕層人口は141万人で、アジアの富裕層の59.3%を占める。2位は中国の32万人で、韓国、インドと続く。日本の富裕層人口の伸び率は8市場で最低だった。

〔日本経済新聞〕


2006.10.06

■「ガンダム世界」の複雑化が人の知的レベルを向上させている?【新清士】

 「ゲーム脳」「テレビ漬け」といった言い方でとかく批判されがちなゲームやテレビだが、複雑な知識や認知能力を要求するように発展してきたテレビやゲームは、結局は人の脳の発達を促しているのではないか――。そうした論証を試みた書籍が米国で昨年出版され話題を呼んだ。日本でも最近翻訳されたスティーブン・ジョンソンの「ダメなものは、タメになる」(翔泳社)である。(新清士のゲームスクランブル)

 ゲームのユーザーは、自分で操作する前に、どのような結果になるか仮説を立て、検証し、結果を見るというプロセスを繰り返している。初期の「ポン」や「パックマン」といったゲームは、それは非常に単純なもので、仮説の積み重ねによって完璧な回答にたどり着くことはそれほど難しくなかった。しかし、現在のゲームでユーザーに求められるのは、アクションゲームであれば謎解きのためのプロセスの複雑な仮説検証であり、RPGであればアイテムの量を状況にあわせて管理するリソースマネジメントでありと、高度に複雑化している。

「スリーパー曲線」とは

 ドラマであれば「24」や「ER」のように、同時に複数のストーリーが交錯し、視聴者に複雑な人間関係を追い続ける知的作業を要求する。昔のドラマに比べ、今のドラマは非常に複雑な構成になっていて、理解するための知的な要求水準は高まっている。

 ジョンソンは、こうした人が気づかない複雑化の傾向を「スリーパー曲線」と名付けている。複雑化していくテレビやゲームは、複雑な知的作用を行う訓練となっているのであり、その証拠として人々のIQ値はマクロベースでは上昇傾向にある。ゲームが批判を受けがちな学校などでの暴力も、イメージとは裏腹にここ10年あまり北米では半減していると指摘している。

 単に新しいメディアとして批判を受けてきたテレビやゲームが、逆に知的訓練として人の知能を発達させているという逆説的な論証の組み立てはスリリングだ。著者のジョンソンは、「創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク 」や「マインド・ワイド・オープン―自らの脳を覗く」などの執筆で知られる科学ジャーナリストである。発達を続けるテレビやゲームについて、単にネガティブでない新しい視点をもたらしているという意味で、非常におもしろい議論を提供している。

 同書ではアメリカのドラマが中心に語られ、日本人にはなじみのないものも多いが、読んですぐにピンとくるのは、日本にもこの議論に当てはまるメディアがすでに多数存在し、同じような「スリーパー曲線」が描かれ、おなじみのものであるということであろう。すぐに日本のゲーム・テレビに応用できる議論であることに気づく。

ガンダムの「1年戦争」

 例えば「ガンダム」だ。

 数年前、オンラインゲームの「ガンダムネットワークオペレーション(GNO)」(バンダイナムコ、旧バンダイ)について取材した際、おもしろい話をうかがった。

 「GNO」は初代ガンダムの世界を多人数でプレイしていく、戦略ゲームとRPG要素を組み合わせた多人数参加型のシミュレーションゲームだ。「1年戦争」と呼ばれる初代ガンダムの世界で、多数のプレーヤーが連邦軍とジオン軍に別れて戦闘を行っていく。

 ゲームはプレーヤーが編成したチームに作戦指示を出すと、コンピューターの側で戦線に自動で送り込む。戦場は、宇宙、地上と刻々と変化し、プレーヤーは常に最適なチーム編成を考えることが求められる。敵はコンピューターであったり、実際のプレーヤーであったりする。

 同時にゲーム内では、戦争の時間経過とともに多数の新しいモビルスーツが投入されてくるので、それを手に入れ自分のチームを常に最適に強化していく必要がある。2003年5月にPC用にリリースされたこのタイトルはわかりやすいゲームシステムが評価され、2Dベースのグラフィックスにもかかわらずパッケージ版が年内に5万本あまり出荷されるヒットとなった(現在は、「2」がサービス運用中)。

 取材で聞いたのは、そのゲームのサポートチームにある日、熱狂的なユーザーから強烈なクレームメールが寄せられたという話だ。「こんな時期に、○○といったモビルスーツが登場するはずがありません。開発チームは、もっとガンダムの『正史』をちゃんと勉強してください」。

 おいおい、「正史」って、なんだそりゃ?

 確かにゲームでは、1979年に放送され一大ブームを起こしたオリジナルアニメーションに比べモビルスーツの種類も多く、登場時期も早い。特にオリジナルのアニメーションでは連邦軍のモビルスーツの種類が少ないため、後の「ガンダム」のオリジナルアニメやプラモデル展開にしか登場しないバリエーションのモビルスーツが多数出てくる。確かにテレビアニメを基準にすれば、その通りとはいえないのだ。

 だが、ガンダムの世界は、そもそも架空の世界である。本当に「正しい歴史」など、どこにも存在しない。しかし、ガンダムの世界に正しい歴史が存在していると考え、その歴史に基づいてゲームを作るべきだとする主張が現れた。それは何を意味するのだろう。

 登場するモビルスーツの数は、初代「ガンダム」の大ヒット後、商品点数を増やしたいバンダイの思惑から、プラモデルのリリースにあわせて少しずつバリエーションが増えていった。「GNO」ではそれらのモビルスーツが多数組み込まれている。

 いわゆるメディアミックス展開といわれる方法で、最近では2006年発売の「機動戦士ガンダム めぐりあい宇宙」(PS2版)に「ガンダム4号機」「5号機」が登場し、ゲームとプラモデルが同時リリースされている。オリジナルの1年戦争では1機しか存在しなかったガンダムが、今や5機も存在していたことになっている。

正史は一人ひとりの頭の中に

 「ガンダム」の世界の理解は容易ではない。今や、複雑に入り組んだ知識を要求する物語へと発展している。1979年の初代ガンダムから、原作者でもありアニメーションシリーズの監督でもある富野由悠季氏によって展開された小説まで含めると、2045年に始まったスペースコロニーの建設と「宇宙世紀」の歴史は、220年頃まで続いている。宇宙に存在するスペースコロニーに住む人々が地球から独立権を獲得するまでの長い一大叙事詩なのである。オリジナルテレビシリーズは、宇宙世紀79年なので、この25年あまりの間に時空がどんどん拡張されてきたことになる。

 だから、ガンダムの世界をマジメに理解するには、まさに歴史を学ぶのと同じように多数の複雑な専門知識が求められる。「ミノフスキー粒子」「スペースノイド」「南極条約」「ニュータイプ」等々。アニメのセリフには何の説明もなくこれらの単語が登場し、単に番組を見るだけでも、アニメに登場する情報以外のかなりの予備知識を要求する。アニメやゲームではその予備知識を知っていることがすでに前提とされていることも多い。

 全体像を把握しようと思えば当然、アニメを見るだけでは済まない。ゲームやコミックなどにも拡張されていったガンダムのサブストーリー群をそれなりに理解する必要がある。また、そのサブストーリー群も、ガンダムについての十分な予備知識を持っていることが前提とされる。この複雑さこそ「スリーパー曲線」といえるものなのであり、オリジナルのアニメの「ガンダム」から、はるかに複雑な世界へと変貌している。だからこそ、今日まで人気は続いていると解釈することができる。

メディア解釈へ新たな視点

 そして、どの作品のどの部分を正統的な歴史として認めるかという能動的な選択によって、「正史」はそれぞれのユーザーの脳の中に、それぞれ独立して誕生していることになる。

 MITのメディア論で有名なヘンリー・ジェンキンス教授はこうしたメディアのことを、これまでのメディアと区分し「トランスメディア」と名付けている。アメリカでは「スタートレック」や「スターウォーズ」がその代表格といっていいだろう。それが、インターネットの発達によって、ユーザーを巻き込んで、さらに複雑に発展を続けている。そうした知的に複雑なメディアへと発達を遂げたポップカルチャーが人の知的成長を促しているというのがジョンソンの主張である。

 そう考えると確かに、「ダメ(bad)」と呼ばれて攻撃を受けがちな新しいメディアは、「タメになる(good for you)」側面を多数持っているといえるのかもしれない。この議論は、現代という時代のメディアを解釈するための一つの視点を提供してくれ、幅広く論じることを可能する最新のメディア論といえる。

「ダメなものは、タメになる」翔泳社ホームページ
http://www.seshop.com/detail.asp?pid=7227

「ガンダムネットワークオペレーション2」
http://www.gno2.ne.jp/

-筆者紹介-
新 清士(しん きよし)
ゲームジャーナリスト。立命館大学大学院政策科学研究科講師

略歴
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心にリサーチするジャーナリストに。他に、ゲーム専門学校デジタルエンタテイメントアカデミー講師。ゲーム開発者を対象とした国際NPO、国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表。コンピュータエンタテインメント協会(CESA)理事。ブロードバンド協議会オンラインゲーム専門部会部会長。日本デジタルゲーム学会(DiGRA Japan)理事。著書に『「侍」はこうして作られた』(新紀元社)。

<関連リンク>
国際ゲーム開発者協会日本
E-mail:sakugetu@gmail.com

〔日本経済新聞〕


2006.10.03


■米国の人口、今月3億人突破へ

 米国の人口が10月中旬に3億人を突破する。2億人を超えた1967年から40年足らずで1億人が増える。人口減少や少子高齢化に悩む日本や欧州などとは対照的に、高い出生率と大量の移民流入により2050年までに4億人に到達する見込み。人口増は社会や経済を活性化する一因になる一方、移民増による社会不安の高まりを懸念する向きもある。

 米国は中国とインドに次ぐ世界3位の人口大国の地位を固める。

〔日本経済新聞〕