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MINDSHOOTING ESSAYS -What's Cool Business!?-

■□■第18号■□■



≪CONSIDERATION≫
21世紀を生き抜く負けないビジネス・その3
〜何も始めないほうがいい。でも一度始めてしまったら、最後までやり通すしかない。
「40年間ほとんど楽しいことはなかった・・・」
/続き


以下のEPISODEが長編にわたってしまいましたので、次号に順延とさせていただきます。


≪EPISODE≫
 ▼Failure
  >file#3-5
   〜出戻りラッシュ・その5


その家具制作販売会社の創業者であり唯一のデザイナーであった社長が当時亡くなり、その会社で修行をしていた彼が新社長に就任することになりました。彼はフランス人なのですが、社長の娘とアメリカに留学時代に知り合い、一旦はフランスで銀行員になった後、彼女との国際結婚によりその国に帰化して婿養子に入ったという経歴の持ち主で、私とはホテルのサウナで知り合い、毎週日曜の午後にサウナで一緒になっては食事やお酒を共にする仲になっていきました。

そのフランス人社長とのみならず、彼のワイフ、というよりも謂わゆる完全なかかあ天下の夫婦でしたし、立場は副社長であっても会社の実権も彼のワイフが掌握していましたから、彼女と彼女の婿さんというべきなのでしょうか、いずれにせよ彼女達夫婦と様々なプライベートな場面を共有していたのです。その折に触れて私が一人ではどうしてもバランスがとれないこともあって、私の彼女候補を紹介すると言っては、二人は毎回に近く様々な女性を連れ立ってきていました。

当時私には日本に彼女がいましたし、面倒なので既婚で単身赴任であると伝えもしたのですが、もともと性に奔放な人達でしたからそれはそれということで完全に無視されてしまっていました。

当時私は少しでもビジネスに関係する女性達とは、特別な関係を持たないようにするという主義でしたから、その場その場を臨機応変にやり過ごしていたのですが、それを私が気に入った女性がいないのだと思い込んでしまった二人が次々と連れてきた女性達、特にその内のとうとう私の彼女として周囲に公認されてしまうことになるある女性との顛末は、またちょっとした物語になってしまいそうですので、また別のシリーズとして触れていきたいと思います。

その一連の紹介攻撃をかわすためというわけでもなかったのですが、連れてこられた女性達が皆知的美人揃いだったこともあり、オフィシャルにアシスタント候補の紹介を依頼したのです。そして二人が同席しないオフィシャルな面談の場に現れたのが、私自身が世界最大手の監査法人からヘッドハントをすることになる現地国籍のその女性だったのです。

彼女は、ニューヨークで生まれ幼少期を過ごしたので、英語はネイティブでしたし、帰国して高校までは祖国で暮らしたので、その国の言語や文化にももちろん通じてもいました。

その後アメリカ西海岸の今某議員の学歴詐称で話題のカリフォルニアの大学で留学生活を過ごしたのですが、そこで彼ら夫婦とも同級生として出会うのです。

その同級生の二人が後に結婚したわけで、さらにフランス人の婿社長が卒業後フランスに帰国して就職した銀行の同僚と彼女がその後結婚することになり、その同僚の彼女の夫は家族がスイスで暮らしているためスイスとその国の二重国籍を、そして彼女はアメリカ、スイスとその国の三重国籍を有していたのです。

日本の常識では理解しづらいのですが、彼女は三つのパスポートを夫は二つを目的に応じて使い分けていましたし、ドイツ語とフランス語もこなせるのです。

私は英語がやっとでしたが、その二組の夫婦が英語とフランス語とその国の言葉をランダムにお互いに合わせて使い分けつつコミュニケーションをはかる状況は、慣れてしまうまではあまり居心地の良いものではありませんでした。

彼女は、大学を卒業すると、帰国はせずにそのままイギリス・ロンドンに渡り、世界最大手の会計監査法人に就職します。そこでイギリスとアメリカを行き来しながらキャリアを積み、やがてその国の新設ブランチに転属願いを出して帰国していたところを、私はそこから彼女をヘッドハントすることになったのでした。

当時発展途上のその国における大学への進学率はまだ3%前後に過ぎず、そんな状況の下で世界的水準でも難関校であるそのカリフォルニアの大学に留学するなどということは、ほんのごくごく少数の人に限られた特別なケースだったといえます。

その国への輸入が解禁される数年前に、既にその国からの輸出は解禁されていましたから、もともと自給率も100%ですべての食材を国内で賄い、豊富な地下資源にも恵まれ、そして脈々と長い歴史の中で培ってきた人的技術、そして国民的に勤勉な質の高い労働力が欧州においてはかねてより高く評価され、その国に外貨を落とす外国企業は引く手あまたな状況でした。

そして何より物価の水準の低廉さから生まれてくる内外価格差により、そうした一般輸出業に携わる一部の特権階級は、莫大な富とあいまっての強大な既得権を得て、事実上その国の政財界を掌握していたのでした。

私が在籍していた会社のその国への進出上関わり合うのもこうした極端な既得権達でしたが、彼らの多くにとっては自国と一般国民は搾取の対象でしかなく、彼らのほとんどは豊かな先進隣国に事実上居を構えて、自国の桁外れに豪奢な邸宅はまさに別荘感覚で使用するというスタイルが一般的でした。

急激な経済発展には必ず伴うインフレの影響をまともに受ける自国の通貨保有を最小限に留め、財産のほとんどをUSDなどの世界的に安定した外貨で形成するという、皆一様に右に倣えの暮らし振りで、必然的に子息子女達の教育も先進諸国に留学させることが常識化していたのです。

先進諸国に留学させることが常識とはいえども、子息子女達に相応な学力が必ずしも伴うわけではありませんから、その多くは多額な寄付金などで入学できるようななるべく聞こえの良い大学に入るとか、無試験の音楽や美術などに関連した専門学校に入るのが常となっているようでした。

帰国すれば親の七光りで、正規には就職が困難な一流会社に就職するか、よほど箸にも棒にもかからない場合には親族経営の会社の相応なポジションに収まってしまったりするわけです。式典やパーティーの席などでそうした連中とも談笑したりする場面も多かったのですが、まさに見栄と虚勢に終始するばかりの木偶(でく)揃い、それはもう私には退屈と苦痛の極みでしかありませんでした。

そこに来るとその二組の夫婦は、それぞれの本質的な人格はともかくとして、4人ともが実力でその大学に入学卒業し、また家具メーカーの箱入り娘を除けばまたそれぞれの実力で一流会社への就職も果たした力量は備えているわけですし、インターナショナルな知識や経験による彼らとの話題からは、私も様々な刺激を受けることができたのです。

その二組の夫婦は(正確には彼女とフランス人婿社長の銀行時代の同僚は、まだ当時は恋愛中で後に結婚することになるのですが)、ほぼ毎週日曜の午前にテニスを楽しんでいて、彼らの間で私がアシスタントを探していることが話題に昇ったらしく、当時既にその監査法人の仕事に行き詰まりを感じ始めていた彼女から、私に会って話だけは聞いてみたいとの申し出があったのでした。

彼女の側も私の側もさほどお互いに期待感は抱いていなかったのですが、私達二人の面談の場は翌週の日曜の午後に現地資本の一流ホテルのロビーラウンジの奥まった一角に、家具メーカー夫婦によってセッティングされました。

面談の場所に現れた彼女は、すでに第一印象からそれまでに私が面談した100名近くの女性達とはまったく次元を異にしていました。一言で言えば、私にとって普通だったのです。

特別に美人というわけではありませんが、スポーツで鍛えたスレンダーな長身にこざっぱりしたスーツ、さりげなくシステム手帳を手にして、美しい発音のネイティブな英語できちんとした社交的な挨拶をする彼女に、私はとても好印象を受けました。

そんな外見的なところばかりでなく、しばらく談笑した彼女の内面性の素晴らしさにも私はすっかりと魅せられてしまい、私は彼女と出会うためにそれまでの退屈と失望の面談の繰り返しをしてきたのだと、運命的な出会いすら感じたものでした。

彼女の側でも私の側から彼女へほどではなかったかとは思いますが、その面談時に私のアシスタントへの転職を決断するには充分なだけの何かを感じてくれた様子で、身辺の整理に3カ月の時間が欲しいとの申し入れがありました。

私としては、先を急ぐ気持ちは否定できませんでしたが、彼女ほどの人材とすれば当然のことでしょうし、その時点でもはやそれ以降の一切の面談を中止して、彼女を迎え入れる前提での戦略をあれこれと立て始めたのでした。

もちろんその時点においては、私自身の退職などという発想は皆無でしたし、社長との現地空港での最終会談時までは私は希望をつないでもいました。そしてその私と社長との信頼関係の完全な崩壊と同時の空港での喧嘩別れは、彼女が転職してくる予定日のちょうど一週間前の出来事となってしまったのでした。

私はもとよりその会社に終身雇用されようという意志は皆無でしたし、その一連の海外進出事業が軌道にのった段階での退職を前提にしていましたから、私自身に関する事柄は些細なことでしかありませんでしたが、まずは何よりその彼女の将来が、そして私個人としても深い信頼関係にあった現地の様々なビジネスリレーションの存在を考慮すれば、私の退職はまったく許容される予知のない、私一人の問題に留まらない深刻な問題だったのです。

 

第19号▼Failure>file#3-6
   〜出戻りラッシュ・その6
                              に続く

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