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MINDSHOOTING ESSAYS -What's Cool Business!?-

■□■第19号■□■



≪CONSIDERATION≫
21世紀を生き抜く負けないビジネス・その3
〜何も始めないほうがいい。でも一度始めてしまったら、最後までやり通すしかない。
「40年間ほとんど楽しいことはなかった・・・」
/続き


以下のEPISODEが長編にわたってしまいましたので、次号に順延とさせていただきます。


≪EPISODE≫
 ▼Failure
  >file#3-6
   〜出戻りラッシュ・その6


それからは、彼女をはじめその国における様々なビジネスリレーションをどのように収拾すべきなのか???・・・、そのまま事態を放置して帰国することだけはありえないというその時点における唯一の確信の下で様々に思索を巡らすも、解決策をなかなか見出すことはできませんでした。

それらはみな相手があってのことですし、いつまでも私一人が孤独な混濁した思索の海を彷徨い漂い続けていても致し方のないことでしたから、まずはそれぞれのリレーションを一軒ずつ訪問しながら状況を報告して回ることから始めたのです。

大筋では案ずるより産むが易しで、誰もが海千山千のその国では大手企業の経営者達でしたから、慌てて取り乱すなどという事態は皆無でしたし、私を糾弾するような人物もいませんでした。私というソースを失ってきっぱりと撤退を表明する先から、改めてゼロからのアプローチを開始しようとする先まで、それぞれのその後の対応は様々でしたが、少なくとも私自身のその後の対応への直接の関与を与儀なくされた先は、その内の二軒と彼女のみというところまで整理することができました。

そして、その前提での事態の収拾に関するそれからの対応策の検討を、私は改めて開始することになったのです。

はっきりしていたことは、私を通してそれまでに少なからぬ人的金銭的投資をしてしまっていた二つの企業の救済の必要性でした。

前述のように、他にもそうした企業がほとんどでしたが、その内の多くは既に私が退職した会社の上層部とのパイプがありましたし、私が会社としての契約を未締結であった企業も、事実上既に各種案件は流れ始めていましたから、まずは私を介さずとも正式受注につながっていくものと思われました。

問題の二つの企業というのは、殺害を図ってでも私の排除を目論んでいた前述の現地ビジネスパートナーの傘下である大型案件の主幹企業2社の代替として、私が独自に調査及び選択していた先だったのですが、そのビジネスパートナーの代わりに私自身が排除されてしまった以上は、彼らの希望は皆無という状況になってしまったわけです。

何と言っても私が自身の大きな責任を痛感したのは、世界最大手監査法人からヘッドハントをした彼女のことでした。

将来性と安定性を失ってしまった彼女と、その二つの企業の救済のために、私自身が代替の事業を立ち上げていかざるをえないことは、当時のごく自然な流れだったのです。

自分なりの人生設計においてその時点で自らの事業を立ち上げたかった訳ではなかった私としては、できることであれば彼女自身に現地決人を立ち上げてもらい、その会社をビジネスパートナーとして支援していくことができれば理想的だったのですが、彼女とてそうした唐突な展開において独立の意志を固めるだけの基準には至ってはいませんでした。

そうした慎重な姿勢が良い意味での彼女の特質でもあったわけですから、リスクを可能な限り排除したいとの希望に基づいて、結局私が外資による現地法人を設立し、名目的な社長を別に置いたうえで彼女を事実上の現地責任者として、そして東京に駐在員事務所を出して私がマネージしていくという案が固まっていきました。

退職した会社のケースにおいても、進出当初は何らそうした海外事業のノウハウも有しておらず、私の経験がイコールそのまま会社の実績という試行錯誤的な環境でしたから、現地法人の設立の登記手続きや様々なその国固有な法規制などについても、勝手知ったる状況で何らの不安もありませんでした。

唯一の問題点と言えば、まとまった外資としての最低資本金の調達でした。調達がかなわない場合に備えるという意味でも、現地国籍の社長名義で設立してしまうという最低資本金の制約のない設立手法も想定していましたから、彼女と必要充分なだけの信頼関係が築いていくことのできる社長のセレクトが最優先課題でしたが、最初に紹介した人物と彼女がすぐに意気投合してしまい、当面の問題点は一通り労せずして解消してしまうことができました。

事業予算計画も、彼女がそれ以降安定して暮らしていけるだけのスケールでしか想定していませんでしたから、投資額はもちろんのこと、事業展開上のリスクも最小限に抑えつつ、可能な限りコンパクトにまとめあげました。

事業内容としては、彼女とも様々リサーチをした結果、レザーウエアを扱う貿易会社を設立することにしたのです。イタリアやスペインから加工する前のレザー原皮を輸入し、その国の優れたそれでいて安価ななめしと縫製の技術により製品化したレザーウェアを日本に輸入しようという計画でした。

ハイリスクハイリターンの自らのオリジナルブランドを立ち上げるのではなく、利益率は低下しても国内の各ブランドのOEMとして、各ブランドの個々のデザインによる買い取りを前提とした受注生産という、在庫を抱えない最小リスクの体制をとることにしました。

それでも原価計算をしてみると、その国と日本の大きな価格差から期待できる収益率は、その国の社長と彼女、日本側の営業窓口としてのスペシャリストの三名の賃金分には剰りある数値でしたから、充分に事業として成立させていけるという確信を容易に全員が共通して抱くことができたのです。

日本側の営業窓口としての事実上のキーパーソンには、私には事前に心当たりがありました。というよりも、その心当たりがあったからこそ、この事業を立案したと言っても過言ではありませんでした。その人物に対して予めこの事業への参画の内諾をとっていたことは言うまでもありません。

私は、通常事業計画の立案にあたってはまず人が先にありき、それぞれの役割を担当する人材の特性や意欲を計り、適材を適所に配置したうえでさらに補助的人材を育成したり、必要に応じて募集やリクルートをして組み立てていくケースが一般的です。

企業としての案件推進の成功は、個々の人材の能力よりも意欲に、また派手なスタンドプレーよりも地味なチームワークという競争ではなく協調の論理による場合が多いというのは、私の経験則の一つです。

デザインなどのクリエイティブワークや研究開発などといった例外的なケースももちろんありますが、一般的な職種に関しては個々の人材の能力の度合いは、ほとんど事業の成否には影響がありません。例えば生産性の高い人材は、生産性の低い人材2名で代用できてしまいますし、経営的視点からはかえって様々なリスクを分散できるというメリットすら生まれてきます。

人材を生かせないのは、あくまで経営陣としての資質の問題であって、個々の人材の力量や在り様によるものではありません。人材こそすべて、企業は人の幸せのためにこそ存在しうるのです。安易に人材をリストラする倫理感の欠落した無能な経営者が蔓延する昨今の経済界の実情にはつくづく辟易してしまいます。

その人物とは、ある中堅アパレルメーカーでマーチャンダイザーとして活躍していた女性でした。

私は学生時代からの友人を通して以前から彼女を知り及んでいたのですが、この事業における日本側のスペシャリストとしては、まさに最適と思える人物でしたから、事業立案当初の段階において、学生時代からの友人を通して彼女のリクルートの意向を確認していたのでした。

彼女は在籍する会社の、商品開発やブランドの立ち上げ、取引先との各種折衝から収支管理まで、事実上実務面を総合的に進行管理する立場でしたが、私は初対面の際に自らの会社への貢献度と待遇のバランスに不満を感じている旨を聞き及んでいましたので、改めて学生時代からの友人を通して確認をしてみたところ、まだ状況はほとんど改善されておらず、私達のヘッドハントの誘いへの内諾もあっけなくとれてしまったのでした。

必要なそれも希に見る秀逸な人材が揃いましたから、私はその事業立ち上げの準備を急ピッチで進めていきました。日本からの私という外資としての必要最低資本金の金額までは及びませんでしたが、現地法人の設立や実際の事業立ち上げと当面の運営に足るだけの資本の調達もできましたし、エージェント問題から輸入が困難かと思われたイタリアの意中のメーカーからの原皮も高条件での調達の目処が立ち、現地におけるトライアルオーダーの発注先の選定も終わりました。

次の段階においては、日本の各アパレルメーカーにプレゼンをするためのサンプルづくりが必要でしたから、まずは各現地縫製メーカーが保有する様々なデザインの中から日本の市場にテイストがマッチするものを数十点選び出しました。

フランスやイタリアを初めとする世界的トップブランドも、かねてより縫製の工程における大きな比重をこの国に移管してきていましたから、それまでに受注したデザインのパターン(型紙)も各メーカーに保管されていました。あくまでも販売をしないサンプルであればどのデザインであろうと自由に使用が可能であるという、融通がきく大雑把なメーカーの姿勢でしたから、プレゼン用サンプル向けには、各トップブランドの洗練されたデザインをそのまま拝借してしまいました。

縫製のクオリティーには極端にシビアな日本市場向けに、裏地はもちろんボタンやファスナーなどのパーツは日本国内で調達して輸入したうえで、縫製のインスペクションは念入りかつ確実に行なうため、現地の彼女に引き継ぎができるまでの当面の間は、日本でリクルートするキーパーソンの彼女に現地視察も兼ねてしばらく滞在させる段取りまでしていたところで、思いもかけなかった深刻な問題が浮上したのです。

第20号▼Failure>file#3-7
   〜出戻りラッシュ・その7
                              に続く

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