DAILY SHORT COLUMNS - Daily Life -

 

2002.04.26

巡る巡る・・・ Vol.5

その二つの印象的な出来事以来、私は懐古的な気分に囚われてしまっていて、このところ時間に余裕があると、昔懐かしい場所を訪ねて回っています。通った学校周辺やらこれまでに移り住んだそれぞれの街などといったところです。

もう随分長い間、私は住む場所を持たない放浪の生活を続けてきています。どの場所にもどこの人達にも属さない異邦人としての生活です。

もちろん関わりを持たないというわけではありません。その時々の日常生活を営むうえでも、ましてや仕事をして生活の糧を得るためにも、相応の社会生活は不可欠です。ただ世間一般の常識を逸脱したような私の本質的な在り様に関する事柄は、相手から興味を持って尋ねられない限りは、また伝えたとしても理解をされないと判断されるような相手には、私の方から主体的に何かを伝えるということはしないようにしています。

第三者に理解してもらうことも面倒ですし、もちろん私の実情を知る何人かの親しい友人もいないわけでもないのですが、というような訳で、長く離れて暮らす家族をも含めて私を知るほとんどの人達は私の在り様を知りません。(続く)


2002.04.24

巡る巡る・・・ Vol.4

まるで浦島太郎にでもなったかのような気分でした。

彼女が私の想い出の女性であることに気付いてからは、私はまっすぐに視線を合わせられないでいましたから、彼女が私に気付いていたのかどうかは判りません。しかし、何かすべてを拒絶するかのような雰囲気がありましたし、私はどうしたものかと思案しましたが、次の駅で降りなければならなかったこともあって、結局そのまま声をかけずじまいで地下鉄を降りてしまいました。

私はホームに降りて振り返ることも躊躇しながら出口に向って歩いていったのですが、動き出した地下鉄に思わず目をやると、彼女の膝の上の本に目を落としたままの姿がちょうど一瞬目にとまりました。

私は打ちのめされてしまったような沈んだ気分に支配されていました。彼女の変貌の大きさにだったのか、気付いていたのにもかかわらず声すらかけられなかった自らに対してなのか、思考はまったくまとまりませんし、その後の打ち合わせにもろくに集中できず早々に切り上げ、ただあてもなくぼんやりと街を彷徨い歩くうちに、いつしかあたりはもう夕闇に包まれてしまっていました。(続く)


2002.04.23

巡る巡る・・・ Vol.3

彼女も気にしないでくれと言っていましたし、私も今後彼女との関係をどうこうしようなどというつもりもないのですが、相手の考えや感情の動きなどには敏感なものとの自負もありましたし、まったく予想をしていなかった展開に驚きと戸惑いを感じつつ、次の打ち合わせに向うための地下鉄に乗ったのです。

とりとめもなく思いを巡らせていたこともあってのことでしょうか、私は向かい側の席に座った女性が目に映ってはいたのですが、その女性がまだ私が二十歳代前半の頃に想い焦がれた女性であることに気付くのに、一駅分くらいの時間を要してしまったのです。何故なら私を驚愕させるに充分なほどに、彼女が老け込んでしまっていたからなのです。

彼女は膝の上に置いた厚い単行本に目を落としていたのですが、本当にその女性に間違いがないのだろうかと疑ってしまうほどに、ノーメイクの肌はやつれ、髪も無造作にひっつめただけ、服装にもほとんど無頓着というイメージで、当時私を含めて周囲の男達の視線を釘付けにしていたあの美貌は、もはや見る影もなかったのです。(続く)


2002.04.17

巡る巡る・・・ Vol.2

その彼女とは、もうかれこれここ3年来の付き合いで、案件のリーダーであったこともあって、直接会うのは2〜3ヶ月に1度あるか程度だったのですが、日常的に電話やらメールでは仕事上のやりとりをしてきていました。

もともと銀行でキャリアを積み、その銀行をメインバンクにしていたその会社の社長が気に入って1年がかりでヘッドハントしたというだけあって、彼女は、男女問わず部下にはもちろんのこと、外部の取引先からの信頼も厚く、その会社では社長室付きのアカウントエクゼクティブとして、案件の予算も含めた全体の進行管理を任されているような、とても有能で知的な女性です。

外見はスリムな長身で、特別な美人というわけでもないのですが、ショートカットでボーイッシュなイメージ、とても気の付く繊細な性格、いつも上質なものをさりげなくこざっぱりと着こなすセンスの良い彼女に、私ももちろん好意を抱いてはいましたが、ごく一般的な素敵な人だなという程度のものでしたし、ましてや彼女の特別な気持ちにはこれまでまったく気付きませんでした。(続く)


2002.04.15

巡る巡る・・・

今日、心に響くニつの出来事がありました。

ーつ目は、唐突に恋の告白を受けたことです。ある取引先のプ口ジェクトリーダーをしている女性からだったのですが、この数年継続的に推進してきた案件がー段落したため役員達にひととおりの挨拶を済ませ、ロビー階に下りるエレべーターに乗ったところ、閉まりかけたドアーが開いて彼女が飛び込んできたのです。

「あのっ・・・、お伝えしたいことがあるんですけど・・・、私・・・、私・・・貴男のことが好きなんです・・・・・。そのことだけどうしてもお伝えしたくて・・・、ああすっきりしたあ。これで私も配置換えになりますので・・・。ごめんなさい、突然・・・、気になさらないでくださいね。気持ちをただお伝えしたかっただけなんです。それではお元気で、さようなら」

エレベーターがロビー階に降りるまでの間に、彼女は一方的にそれだけ話して、私をロビー階に送り出した後、そのまま同じエレベーターで元の階に戻っていってしまいました。私が何のリアクションもできないでいるうちの、ほんの数十秒の間の出来事でした。(続く)


2002.04.09

無敵の最強オバタリアン軍団 Vol.4

特別他人に対して気を遣うとか、過剰に気取ることもありませんが、それでも他人に不快感を与えない身だしなみ程度の最小限の心遣いは、社会生活においては不可欠だと思います。

本質的に人は誰もみな自己本位ですし、羞恥心とか他人への心遣いも、一個人としてのある程度の高い人格や広い教養や強い責任感などに立脚して、お互いの尊厳を理解し合い尊重し合う度合いに比例して生まれてくるものですから、身だしなみ程度の最小限の心遣いとて、できる人にとっては至極当然のことであっても、すべての人が相互に持ち合うことは決して容易なことではありません。

日常生活の範囲がどうしても狭くなってしまいがちな有閑オバサマ族や、さらにその範囲が狭まりがちなオバタリアンにとって、自己本位的発想の増長と羞恥心の欠落の傾向が高まってしまうことは、自然な成り行きであることは否定できません。そういう意味では、職場と
家庭の範囲から出ない多くの仕事人間お父さん達とて、五十歩百歩の基準の相違でしかないことを思えば、オバタリアン蔓延の根源理由は、現状の社会を形成する私達の共通意識にあることに気付かされます。(続く)